「早く彼氏作りなよ」「ねぇ、誰か良い人いないの?」
前の恋人と別れたばかりの頃、飲み会に行くといつもこう言われた。女子会でも、友人達はそれぞれの恋バナのターンが終わると、ここまで話を聞いてくれたお返しにと、毎回私に話を振ってくれた。でも、私には話せることが何もなかった。
友達に相談したくなるような気になる人がいるわけでもなければ、これから恋愛に発展しそうな出来事なんかも起こっていなかった。
そのため、友人達の優しさを毎回無下にしているようで、とても申し訳ない気持ちになっていた。ありがたいことに、私と同じパートナーのいない男性を紹介しようとしてくれる人もいた。でも私は合コンの類のものが大の苦手なため、いつもそれらを断っていた(そういう目的があるとは知らされずに誘われた集まりも何回かあるが、それは本当に退屈な時間だった)。
でも私が新しい出会いを求めなかったのには、もう1つ理由がある。
それはある恋の経験によって、自分の心が十分に満たされていたから。新しい恋を求める必要もないくらいに。
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その人と出会ったのは、私が大学1年生のとき。彼は私が入った音楽サークルの1つ上の先輩で、盛り上がっているグループをみるといつでもその輪の中心にいた。みんなをまとめて楽しませるのが上手で、とてもまっすぐな人だった。
付き合っていた当時の私は、彼がライブハウスで歌ったり演奏したりする姿はもちろん、話が上手でエンターテイナー気質なところ、恐くみられがちだけど実はとても温かい心を持っているところが本当に好きだった。彼の話に私が笑って、私のくだらない冗談に彼が笑って、そんな毎日がとても楽しかった。
大学時代の彼は地元を離れて1人暮らしをしていたが、就職を機に地元に戻った。私の家から彼の地元までは高速で1時間半くらいの距離だったので、少し頑張れば毎週末会うこともできた。
私が会いに行くこともあったけれど、彼が来てくれることの方が多かった。返事はもちろんYESに決まっているのに、毎回会いに行ってもいいかと言葉にして聞いてくれることも嬉しかった。
別れた今となってはお互い無理をしていたことを認められるけれど、当時の私は言葉と行動が一致している彼のおかげで、自分への気持ちを疑ったり、心配になったりすることは一度もなかった。
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彼との恋愛は、自分が大事にされている、必要とされていると心から感じられる恋愛だったように思う。その経験があったおかげで、新しい恋愛をしなくても寂しいと感じたことは今のところ一度もない。
あの頃、彼と毎週のように会っていた週末も、今は1人で買い物をしたり、舞台を見に行ったり、家族や友人と旅行をして過ごしている。趣味の幅が広がったり、自分が心からしたいと思っていることや、自分磨きにかけられる時間がたくさんあることにとても幸せを感じている。友人達の恋愛話を聞いているときも、本人と同じくらいのテンションで興奮してしまうし、友人の結婚式に参列することもたまらなく嬉しく思っている。
人の恋愛を妬まずにいられるのも、すべては彼が誠実だったから。
唯一後悔があるとすれば、きちんとありがとうと言って別れられなかったこと。この恋愛は間違いなく私の人生のなかでとても良い経験になった。だからこそ最後くらいは、ちゃんと自分の言葉で伝えるべきだった。未練があるとすれば、本当にこれだけ。あとは大きな感謝が残っている。
すべてはあの恋があったから、私は今日も、自分のために過ごす時間がとてつもなく愛おしい。