私の誕生日には、毎年母からメールでお祝いのメッセージが届く。当日、実家にいても東京にいても、わざわざメールで送ってくれる。しかも、長文かつ絵文字で盛りまくり。そして、最後には必ずこの言葉が入っている。
「生まれてきてくれて、本当にありがとう」

暑い夏の日に生まれた私。一人っ子ということもあり、家族からはずっと盛大に祝われてきた。上京後はたくさんの友だちからプレゼントをもらうようにもなった。

それでも、いいことばかりではないと感じていた。

夏休みの期間に誕生日がくるせいで、学生時代はクラスメイトから直接「おめでとう」と言われたことがない。大人しい上に見た目が貧弱だったので「全然夏生まれに見えないね」と、クラスの子からバカにされたこともあった。

いつしか夏は、私の一番嫌いな季節になっていた。

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人間関係で悩んでいるときに「生まれてこなければよかった」と、母の前で言ってしまったことがあった。「そんなこと言わないで」と、母が悲しそうな表情をしていたのを今でも覚えている。それから母は、私が生まれるまでの話をしてくれた。

妊娠が分かってから、問題なくお腹の中で育ってきた私。しかし、ある日の検診で切迫早産の危機にあることが判明した。「このまま生まれてしまうとかなり危険です」と真剣な様子で医師から言われ、顔が真っ青になるほど不安になった母。処置を受けて、安静にしていれば大丈夫な状態になっても「お願い! 無事に生まれて!」と毎日必死に祈り続けていたらしい。
私が元気な産声を上げて生まれてきたときは、「本当によかった」と母はホッとしたと言っていた。そんな大変な思いをしながら産んでくれたことを知り、私は「何てことを言ってしまったんだろう」と自分の発言を恥じた。一生懸命に頑張ってくれた母を傷つけることを言ってしまったと気づいて、私はすぐに謝った。

あの日から「生まれてきてくれて、本当にありがとう」という母の言葉に、とても重みを感じるようになった。今でも私の誕生についての話題が出ることがある。

当時を思い出しながら「みんなに会いたくて、早くお腹から出たくなっちゃったんかね~」と母は笑っていた。

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生まれた季節なんてどうでもいい。女優やモデルみたいにキレイな見た目じゃなくてもいい。他の友だちのように兄弟がいなくて寂しいけれど、今はもうそんなことは気にしていない。五体満足で元気に生まれて、愛情をたくさん注がれてここまで育った。そして、今もこうして無事に過ごせている。それだけで充分。

「みちるは犬屋敷家の宝物」「誰よりも可愛いし、すっぴんでも美人さん」などと言いながら、いまだに私を溺愛する母。若干引いてはいるものの「大変な思いをして私を産んでくれたからだろう」と、大目に見るようにしている。

大好きなお母さん。私を産んでくれて、本当にありがとう。これからも私は、元気に生きていきます!