約半年前、ご飯に付き合ってくれた女友達に何気なく言ったこと。

「最近、推しができた!見るだけで癒される〜」

ごめん友達よ、嘘をついてしまった。いや、嘘になってしまった。
推しのことを好きになってしまったのだ。

推しである彼とは、共通のコミュニティで知り合った。クールな雰囲気だな、というのが第一印象。一方で、初々しさが抜けていない感じがした。「最近、社会人になったばかりなのかな」と思った。
コミュニティ内でも接点はそこまで多くなく、メンバーの一人として捉えていた。それ以上でも、それ以下でもない。

◎          ◎ 

相手を知ってから数ヶ月後、彼が学生時代の友人と思われる男性と話している姿を見かけた。真面目な表情しか見たことがなかったのに、友人といる時の彼は笑っていて、その笑顔が眩しかった。
またある時は、たまたま近くにいた小さい子どもが彼の近くに寄った時、彼が子どもと同じ目線にしゃがんで、「ばあ」をしている無邪気な姿を見てしまった。まるで親戚の小さい子をあやすお兄ちゃんみたいだった。あんな表情もするのか。

すれ違って「おつかれさまです」と挨拶して彼の方を見ると、ピスタチオカラーのシャツを着ていた。あまりにも似合っていて、バレない程度に硬直してしまった。こんなにピスタチオカラーが似合う男性、見たことがない。
これが極め付けだった。「この人、推せるわ」。そう思った。

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推し始めてから、コミュニティで彼に目が行ってしまうことが増えてしまった。気づかれないようにチラ見することは日常茶飯事。話す機会に遭遇したらニヤけてしまう気持ちを抑えることが第一優先、そして冷静さを保って会話を交わす。推しが身近にいる生活を楽しむようになった。
私はアイドルをはじめとした芸能人に推しが多くいるタイプだ。自分を励ましてくれたり、癒しや元気を与えてくれる存在は多すぎても困ることはない。もちろん彼は芸能人ではないが、これからも推しとして遠くから眺めていようと思っていた。

しかし、ここ数ヶ月で推しとは違う感情を抱くようになってしまった。まず、コミュニティ業務の関係上、話す機会が今までよりも増えた。優しい顔やきょとんとした顔、ちょっと困った顔…今まで以上に彼の表情が目に入り、余計緊張してしまう。
最近は彼の手書きのメモを見るだけでドキドキしてしまう。こんな字を書くんだと想像するだけできゅんとしてしまう自分、ちょっと気持ち悪くないか。
コミュニティの女性メンバー、特に彼と年の近そうな女の子と一緒にいる姿を見ると、心がきゅっと狭くなってしまう。彼の年齢は知らないけどおそらく私より年下で、年齢差はそこまで大きくないと思う。しかし、私より若い女の子といる方が断然しっくりする。その事実に落ち込んでしまう。
どうしよう、推しを好きになってしまった。

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恋愛対象として人を好きになることがあまりにも久しぶりすぎて動揺している。これまでの人生で、私は恋愛を避けてばかりだったからだ。好きな人ができてもアプローチはしなかったし、振られること前提で告白したことはあるものの、それだけで満足だった。

好きになった人と恋人関係になることが怖かったのだ。そんな考えをずっと引きずっていたから、社会人になっても恋愛経験値は小学生並みだ。

彼を好きになってしまったことは認めざるを得ない。でも、その先は望まない方が良いのだろうか。私と一緒にいても良いことなんかない。そもそも、彼は素敵な人だから恋人がいてもおかしくない。自分自身と付き合うことを面倒くさいと思っている私は、恋愛に絶対向いていない。
それでも、考えてしまう。彼は私をどう思っているのだろう。最近よく目が合うと思うのは自意識過剰なのだろうか。

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少なくとも、彼を推し続けることに変わりはないだろう。でも、彼に対して抱いている感情がなくなって欲しくないと思ってしまう自分がいる。

彼についてあれこれ考えながら眠りに着く。恥ずかしながら、これが最近の日課だ。
いつか女友達に嘘をついてしまったことを白状しよう。