20歳の誕生日に、父からティファニーのネックレスをもらった。小さなダイヤモンドがついた、華奢なネックレス。父がそんな可愛らしいプレゼントをくれたのは初めてだった。

きっと、20歳という記念の年に、何か特別なことがしたかったのだろう。年頃の娘が喜びそうなものを一生懸命考えて、行き着いたのがティファニーだったのだと思う。
ところが、ロック・パンクテイストのファッションや、個性的な古着が好きだった20歳の私は、自分の趣味ではないからと、そのネックレスを着けることはなかった。

それどころか、「私がこんなの着けるわけなくない?」「センスない」とすら思っていた。

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親子関係は特別良くも悪くもなかった。なんとなく距離を保ちながら過ごしていた頃、父の単身赴任が決まった。赴任先は隣の県だったから、最初は週末は帰ってきていたが、面倒になったのか居心地が悪くなったのか、その頻度は減っていった。

それがしばらくすると、単身赴任という名の別居に変わっていった。いくら娘といえど、夫婦間のことはよくわからなかった。それでも、なんとなく気付いていた冷えた空気が、その時はっきりとした距離になった。

それから父とは、2ヶ月に1度くらい外で食事するようになった。最初は正直面倒な時もあったが、自分も年齢を重ね、なんとなくそこにあったわだかまりのようなものも薄れてきた。

距離がある分、父親であるための努力をしようとしているのだと思うと、我が父親ながら健気さすら感じていた。初めて仕事終わりに一緒にお酒を飲んだ時は、なんだか感慨深くもあった。
何かしら理由をつけて会いに来るようになった父。誕生日や父の日にプレゼントを贈ったり、旅行のお土産を買ったりするようになった娘。お互い不器用ながらに、なんだかんだ良い関係でいれていると思う。

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最近ふと、あのネックレスのことを思い出して、引き出しの奥底から引っ張り出してみた。どこか寂しげなブルーの箱からネックレスを取り出すと、真っ黒な錆がこびりついていた。アクセサリーは使わない方が汚れていくらしい。

ネットで調べた、重曹を使った錆取りの方法を試したところ、ネックレスは10年前の輝きを取り戻した。若かりし日によく見もしなかったティファニーは、こんなにも高貴で美しいものだったのだと、今更知った。着けてみたら、案外様になっていた。

ティファニーが似合う女になるまで、そして、父の不器用な優しさに気付くまで、というか素直に受け取れるようになるまでに、10年もかかってしまった。自分自身が大人になって、昔は少し鬱陶しく感じていた父の思いやりを、今は可愛いとすら思うようになった。

経験を積んでこそ理解できることがある。歳を取るということは、悪いことばかりでもないらしい。10年寝かせていた分、これからはこのネックレスの出番を増やしていき、そして、30代はティファニーが似合う凛とした大人を目指そうと思う。

娘の私もあなたに似て不器用だけど、あなたみたいに一生懸命考えて、不器用なりに親孝行しようと思います。

いつもありがとう。これからもよろしく。