「なつめさんは女の子だからできなくていいよ

勇気を振り絞って分からない問題を聞いた私に、塾の先生が言った一言である。私は小学5年生のその時から、受験につきまとう男女差についてしばしば暗い感情を抱くようになった。

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地元で中学受験が必要な学校はいくつかあったけれど、男子校と女子校では偏差値に差があった。あえていうならば、男子校の方が難易度の高い学校が多かった。だから、別に先生の中ではただの合理的な判断だったのかもしれない。けれど、その言葉は、中学受験をすると決めた時に近所のお婆さん達に言われた言葉と重なった。「女の子なんだから、勉強なんて頑張らなくてもお嫁にいけばいいじゃない」と。

それでも、反発するように勉強をした。いわゆる天才とは程遠かったから、地道に分からない所を潰していった。それでも最高峰には辿り着くことはなく、中堅の中高一貫校に進むことになった。周りの人は半分本音、半分慰めるように私に優しい言葉をかけてくれたが、近所のおばあさんや塾の先生からは何を言われても、女の子なんだからそのくらいが丁度いいという風にしか解釈できなかった。

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その学校では、高校進学のタイミングで学力別のコースに振り分けられることになっていた。友達を作るのが上手くもなかったから、休憩時間には暇つぶしも兼ねて勉強していた。すると、ごく自然に高校には東大合格者も出るような一番レベルの高いコースに進めた。

レベルの高い仲間に囲まれて、中学の時のよう優越感にのんびり浸る余裕はなかったが、男女比も同じくらいで、文理選択の際も、例えば文系は女子ばかりで理系は男子ばかりというようなことは全くなかった。勉強におけるジェンダーギャップは、勉強に本気ではなかったり、妥協していたりする人たちの間でしか起こらないものなんじゃないかとその時は思ったくらいだった。

しかし、高校3年生にもなると状況は変わってきた。担任の先生がこれから地獄の1年を迎える私達に言った。

「一年ずっと走り続けるのはしんどい。浪人も希望するなら全然構わない。ただ、あくまで傾向だけど、女子はあまりおすすめしないかな。体力とメンタルが持たない子が多いから。男子は受験直前で指数関数的に偏差値上がるっていうのもそこそこ見るけど、女子は最初から最後までゆっくり着実に上げていくって感じなんだよね。まあ、もちろん例外はあるとは思うけど、これからの一年の戦略考える上での参考までに」

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結局この人も男女で分けて考えるのか。ドロドロした感情が溢れてきた。怒りか憎悪か、そんなものだと思いたかった。

でも、違うと分かっていた。私はただ、悔しかったんだと思う。今までの経験から自分は受験の押し潰されそうなプレッシャーに耐えられるほど強くはないということを。そして、学力も徐々にしか上がらない、つまり相対評価の受験競争でそれは現状維持にすぎないということを。
でも、分かったところで私にできることはひとつしかない。ただ、がむしゃらに勉強するだけだ。

受験という大きな壁にぶつかる度、立ちはだかったのは差別というほどのものではなかった。あくまで傾向で、あくまでジェネレーションギャップ。そこに引っかかりを覚えてしまうのは、ただ私が自分自身に劣等感を感じているからなのかもしれない。だから、これはただの八つ当たりかもしれないが、せめて、「女の子なんだから」は聞きたくないものだと思う。