4年と少し前、私は高校を卒業した。
ほんとに、何もかもが楽しくて、箸が転んでもおかしいという言葉が真実だった、あの頃。
日常のあれもこれも煌めいていて、新しくて、なんだか無敵みたいな気分だった。

けれど、授業が終わって16:10から。
カラフルな1日のうち、気分が灰色になる時間がある。
今でも思い出そうとするだけで頭にもやがかかったみたいになる、あの時の気持ちを思い出すだけで苦い味がする、そんな時間が存在した。

◎          ◎ 

運動神経が昔から悪かった。
前回りはできるけど、後ろりはまっすぐ行かない。
逆上がりはできないし、50メートル走は9秒台に乗るのがギリ。
身体を動かすのは好きだったけど、いかんせん何をするにも「センス」がなかった。

そんな私が、中学に入ってなんと剣道部に入部した。
中高一貫校であったから、これは6年間、その部活に入るということで。
母には冗談かと笑われ、おばあちゃんには顔が傷だらけになるんじゃと心配され、小学生だった妹は長続きしないに全ベットした。

そしてまあ、私以外は気づいていたのかもしれないけれど、剣道をめて、2ヶ月くらいする間には、自分にこれまたセンスが一切ないことを自覚する。
そもそも、私が幼稚園でお絵描きしていたような頃にはもう竹刀を握ってました、みたいな経験者が多いスポーツである中、自分はあまりにも……あまり傷をえぐるのはやめておく。

◎          ◎ 

それでも、一緒のスタートラインから始めたはずなのに、元々運動神経がいい人たち、センスのある人たちが、先輩に褒められ、試合で勝って、後輩に慕われていく中、私はいつも端っこで空気を消していた。

同じ時間練習して、それ以外でも自主練して、勝ちたい気持ちだってみんなと同じだし、でも何が悪いのか、どこをどう直せばいいのか、わからなかった。
次第にどうして続けているのかもわからなくなった。
勝てないし、後輩だって強いし、同級生はもっとすごいし。
ずっと劣等感に苛まれ、それでも、自分が弱いことを気にしているって思われたくなくて、
先輩や後輩、同期の前ではずっと笑っていた。

本当は悔しかったし、泣きたかった。
けれど、私よりずっと強い人の横で、弱っちい私が泣くのは、負けて当然なのに、と思われそうでできなかった。
今ならわかる、そう思っていたのは私だけだったと。それでもできなかった。

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いつも辞める理由を探していた。今月の試合が終わったらめよう、新入生が入ったらめよう、今年が終わったら……。
そんなふうに引き伸ばし続けて私は6年間、週6回、1日2時間〜3時間。

気づいたら引退までのカウントダウンが始まっていた。

スポーツは、結構残酷だと思う。

努力したって、おんなじ努力をするセンスを持つ者たちには2、3倍の差をつけられる。
見られるのはいつも結果で、頑張ったかどうかは関係ない。
けど、スポーツでしか得られないものもある。
あの6年がなければ、これまでも、これからも、あれほどの劣等感や挫折を味わうことはきっとなかったし、友達とか家族とかそういうのじゃない、仲間みたいな言葉で呼べる人ができることも多分なかった。

◎          ◎ 

何をやったって、あの日ほど怖くないし、悔しくないし、恥ずかしくもない。
あの思い出すだけで目を背けたくなるような日々に、私は今救われてるんじゃないか、そう思う日が時々ある。
防具を着て竹刀を振ってたあの姿は、上手い人が見れば恥ずかしいようなものかもしれないけど、6年間唇を噛みながら、それでも前を向いて立っていたあの頃の少女が、私にとっては誇りです。