いつからだろう。
ふと気づいた時には、父のことを尊敬していなかった。遊んでくれた優しい父は、今となっては鬱陶しい存在になってしまった。

私は小学校と塾で働いている。両親の影響を受けたこともあってのことだ。母が幼稚園教諭、父は中学校教諭、教育熱心両親のもとで育てられた私は、同じ教員という道を選んだ。現場はブラックな部分も多いが、やりがいはあるし、子どもたちから慕われているから、嫌いじゃない。

父は私にとって憧れの中学校教員だった。勉強ができたわけではない私にとっては、中学校で授業を教えることができるというだけで尊敬できた。父は私の苦手な運動もできた。テニス部で顧問をしていて、土日も部活動に励んでいた。勉強も運動もできて、中学校の先生。そんな父は私の自慢だった。

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でも、少しずつ年齢を重ねるごとに父のモヤっとする言動が気になるようになっていった。母や祖母に対する厳しい言葉遣い。自分の立場を偉そうに語る姿。家事はほぼやらず、自分の思い通りいかないと、すぐイライラした態度を取る。どう見ても嫌な人になっていた。
父が定年退職した後は、ますますその姿が目立つようになっていった。仕事は週に3日程度で、家にいる時間が増えた。父はゲームばかりしていて、食事中もゲームをしている。

家族で食事中もゲームのイベントだからと席を立ったり、仕事中の時間もゲームにログインしたりしていた。尊敬していた仕事に対する熱心さも無くなっていた。

仕事が減ったことで皿洗いの担当が父になったが、イライラした態度でしか取り組まず、たびたび皿を割っては片付けもせず、謝りもしない。自分の失敗を人に押し付けることさえあった。
父が訳もわからず母や祖母に厳しい言葉を投げかけたり、イライラした態度を取ったりした時に何に怒っているのか問うたことがあった。しかし、「言いたくない!」と強い言葉で押しのけられた。その時私の中で何かが終わった。もう無理。この人とはもう真正面から関われない。

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なんでこんな人になってしまったんだろう。いや、もしかしたら初めからこんな人だったのかもしれない。私が幼くて気づかなかっただけだろうか。
わからない。わからない。わからない。
けれど、わかることもあった。
今はもう、父のことを少しも尊敬していないこと。それどころか軽蔑している。

ただ、幼い頃は間違いなく父のことを尊敬していたし、好きだった。
その事実は変わらない。

今は尊敬できないし嫌悪感を抱いている。関わりたくないし話したくもない。父自身は、私や母と話がしたいのに除け者扱いされるこっちが話そうとしてもまともに受け付けてくれないと姉に話していた。

父は自分の言葉遣いがいかにきついか、普段の行いや態度がひどいか、考えたことがあるのだろうか。家のことはほとんどせず、それを当たり前だと思っていて、ありがとうもごめんなさいもまともに言えない。人には強く当たるくせに、自分が指摘されるとすぐに怒る。

そんな人と誰が話したいと思うのか。父は考えたことがあるのだろうか。

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父親だから偉そうな態度を取れるのか。父親というものはそんなに偉いのか。いや違う。家族は、家族というのは、互いを思い合って、手を取り合って支え合って生きていくべきではないだろうか。
尊敬できる父……とまではいかなかったとしても、支え合おうとする姿をみたい。でも、父と娘という関係では、私もどう向き合えばいいかまだ見つからない。

父を変えようとするのではなく、まず、私はどうすべきなのか。そこからかもしれない。姉には話がしたいと言ったのだから、私たちと向き合いたくないわけではない。
父を尊敬できない、嫌悪感を抱くと負の部分ばかりに目をやらず、寛容な心を持つ必要がある。落ち着いて、気持ちを整理して、父と向き合わなければならない。
それは、娘である私の役目なのかもしれない。