私と父親。どこにでもいる親子だけど、私は父が大好きだ。もちろん、時々喧嘩はするけど、小さい時から父は大切に私を育ててくれた。

幼い時は事あるごとにビデオテープでその様子を撮影してくれたり、小学生で部活を始めれば毎週の応援に来てくれたり。そんな父をみて小さい時から、「お父さんみたいな人と一緒になりたい」と思っていた。ちなみに今もその思いは変わってない。

今回はそんな父からもらった何気ない、でも大切な一言について書きたい。

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私の父はちょっと不思議な人だ。性格は真面目だけど、ちょっと不真面目。人の気持ちをわかっている様で、ちょっと抜けてることも言う。でも、予期しない時に良いことを言ったりする。

踏み出すまではかなり悩むけど、一旦スタートしたら悩んでたのが嘘みたいに突破するまでやり抜く人。そしてなんだかんだで、自分の行きたかった次のステージへ行ってしまう。

加えて、見た目は歳の割にはちょっと若く見えるし、何だかつかみどころのない好青年みたいな雰囲気をいつまでも纏っている人だ。

実際、勉強もできて、運動もできて高校でも中学でもモテていたらしい。

(好青年の雰囲気は昔から…?)

でも運動部の男性によくある様な、ガツガツした男らしさがあるわけでもなく、物腰柔らかで中性的な雰囲気さえある。

ちなみに昔は母と結婚しているのにも関わらず、「早く君も身をめた方がいい」と真顔で職場の人に言われるほど、いい意味で生活感が無かったなんてエピソードもある。いわゆる少し前の漫画やドラマで描かれる「男らしい父親像」とはちょっと違っている。

とにかく昔の私はそんな父のつかみどころの無い、何でもスイスイできてしまうところを誇りに思うと同時に羨ましく感じていた。でもある時を境に、父が苦労している面を知ることになる。

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父が仕事で壁にぶつかったのは、私が中学生から高校生にかけての時期だ。職場の異動で違う部署で働くようになった父は、仕事のストレスから少し疲れて見えた。

だんだん表情が険しくなって、仕事のことも話さなくなった。昔は夜に子供たちの前でも、両親揃って仕事の話をすることもたくさんあったのに。両親から仕事でマイナスな感情を聞いたことがあまりなかったから、この空気はちょっと異様。そこから仕事に忙殺されることが多くなって、家族との時間を割くことも難しくなった。

娘の私には言わなかったけど、病院にも通って仕事を休んでいたこともあったと思う。とにかく、普段の生活でも精神的に相当ダメージを受けていることは、私にも一目瞭然だった。家族の暗黒期と言ってもよかったのかもしれない。

私の中では、その時の父との記憶が一番薄い。いや、怖くて向き合うことができなかったのかもしれないと今になって思う。共通の話題も少なく少しづつ疲れていく、そんな父と向き合う勇気がなかったのかもしれない。

私は私で、当時は自分のことで精一杯だった。特に高校生では部活の人間関係で難しい状況に立たされることも多く、勉強との両立にも苦労していた。加えて高校の最後の年は、受験があった。どんどん仕事でダメージを受けていく父を見て、辛かったけど「自分の進路に集中しないと」と感じたこともあった。

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そんな私がまた父と様々なことを本格的に話せるようになったのは、大学に進学してからである。私が大学進学と共に家を出たあたりから、父も仕事を変え少し心に余裕を持つことができる様になった。大学から帰省すると、いつも父はビールを注ぎながら、「そう言えば最近さ〜」なんて言いながら話し始める。

それは社会人になった今日まで変わらない。帰ってくるとお酒を真ん中に置いて、母と妹が帰って来るまで、2人で何となくしゃべる。私の学業、恋愛、結婚、子供の育て方、父の研究、お互いの仕事、家族の昔話、家族のこれから。何でも話す。

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その中で父が放った印象的だった言葉がある。

「でもさ、何でもやってみると、全ては繋がるもんだよ。無駄なことはない。お父さんだって20年ぶりに繋がったもん、仕事で」

ふとした話の流れで、転職したてで自分の選択が正しかったか悩んでいる私に父が言った一言である。

「ほらー!なんか有名な人も、同じこと言ってなかったっけ?お酒飲んじゃったからさ、出てこないな〜笑」

「せっかくかっこいいこと言ったのに、最後はそれ〜?笑」なんて思わず笑ってしまったけど、父の言葉に心がジーンとしてしまった。

予期してないタイミングで、良いこと言うんだよな、この人。(愛を込めて)

何気ない一言だったけど、私にとっては背中を押される言葉だった。

そしてあんなに大変な状況から、環境を変える決断と、そのためにエネルギーを割いた父を改めて尊敬した。「そっか、お父さんも大変だったもんね。ここまで、お疲れ様」思わず心の中でそう言ってしまった。

どこかで何かがつながっている、だから無駄なことは何もない。父からもらったこの言葉は挫けそうになった時の私の支えになっている。この言葉があるから私は明日も頑張れる。ちょっと挫けても前を向ける。

素敵な言葉をありがとう、お父さん。