「お父さんはあなたのことを絶対裏切らない

私の隣に敷いた布団で寝る父が、真っ暗な部屋の中で私にかけた言葉だった。その言葉を聞いて、私の頬を涙が伝った。

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色々な感情がないまぜになって流れた涙だった。

父親の言葉を聞いて思ったことが2つあった。
父親がそんなにも私のことを考えてくれていたんだ、という気づきと私はこのような言葉を他人に言うことはできないだろうということだった。

考えてみて欲しいのだが、「絶対裏切らない」というのはすごい言葉である。
絶対というのは100パーセント、ということだ。正直、物事において絶対と言い切れることの方が少ない。

そして、絶対という言葉の後に続くのが、「裏切らない」。
この2つが合わさって強靭な意味を持つ言葉となる。

だから私はこの言葉を聞いた時、まさか父親がそこまでの気持ちを持って私に接しているとは想像もしていなかった。その言葉を聞くまで知るよしもなかったのだ。
父がそこまで私に対して言い切ることができるのには理由がある。それは私の母親が高校生の頃に亡くなっており、 父親と2人でここ数年生きてきたからだ。
母親が生きていた時、父親がどれぐらいの愛をどれくらいの割合で私たちに注いでいたかはわからない。母親が亡くなったことで、きっと私は母親の分も含めて父親からの愛を注がれているのだと思う。

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本来であれば、私が成人して手がからなくなってからに関しては、母親との2人の未来について考えていたことも多かっただろう。
でもそれが叶うことはなかったから、父親にとって残された唯一の娘である私に全てが託された。

我に返った時、父親の言葉を頭の中で反芻する。
「あなたのことを絶対裏切らない

この言葉を私は父親でなくても誰かに対して一点の曇りもなく、言うことはできるのか。自分にそう問いかける。

悲しいけれども、答えはノーだった。この人にならその言葉を胸を張って言うことができる、そう思える人は頭に浮かばなかった。
それは、私にどこか自信がないからだろう。裏切らないと言い切れるだけの自信がないから、誰のことも頭に思い浮かべることができない。
この人のことだけは裏切ってはいけない、そこまで思える相手が私にはいないのかもしれない。

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未来の自分に自信が、確証が持てないのか それとも自分の人間関係に自信が持てないのか。自分でも明確な理由はわからない。

ただ一つ言えるのは、父親が私にかけたその言葉は嘘偽りなく、そしてまた私のことを一生懸命愛し、大切だと思ってくれていることの証明なのである。
その言葉を言えるくらいの気持ちで、いつも私を思いながら行動をしているのだ。

私はいつも父親を尊敬している。この話も尊敬する点の1つだ。父親は私に必要な言葉をたくさんかけてくれる。でもそれ以上に父親が様々な行動によって、私に何度も 背中を見せてくれている。

言葉で言うことならいくらでもできる。でも、行動は実際にやってみることでしか相手に伝わらない。だから私は父親の言葉を信じているし、冒頭の言葉を言われて涙が流れたのだろう。

いつも見せてくれているたくさんの背中が証明となっているから。
父親のように私も誰かに背中を見せるような行動をし続けていくことが、ある意味で父親が生きた証であり私に残してくれるものなのだ。
父親は偉大すぎて、多分超えられない。だが、少しずつ近づくことなら出来るような気がする。