大学生になって上京し一人暮らしを始めた私は、親の目線を気にせずに思いっきりゲームに打ち込んでいた。「恥ずかしいな。こんなの何のためにならないのに」と思ってはいつつも、やめられない。特に好きだったのはRPG(ロール・プレイング・ゲーム)のテイルズシリーズで、昼夜を問わずをプレイし続けた。

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食事は全て100円ローソンにして切り詰めていたが、アルバイトをしていなかったため、あっという間に生活費は底をついた。親に「教科書代」「サークルの合宿費」と適当に嘘をついて送金してもらい、ゲーム三昧の日々は続いていった。当時は吹奏楽サークルに所属していて週に4回は練習があったが、ほぼ参加しなかった。幹事長が寛容だったからなんとか除籍は逃れていた。そこまでしてゲームをやり続けるのには、理由があった。

ゲームそのものというよりも、それに派生する「二次創作」に夢中だったのだ。アンソロジーや四コマ漫画といった同人誌を、アニメイトやまんだらけを定期的にのぞいて、気に入ったものを買っていた。しかし、それらはおまけでしかなかった。私が最も熱を上げていたのはキャラクターと自分が結ばれる「夢小説」だった。

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ゲームに詳しい人なら「それならRPGの二次創作という回り道をせずに、乙女ゲームでいいじゃないか」と思うかもしれない。でも私は乙女ゲー特有の、恋愛を主軸に進んでいくストーリーがどうも苦手だった。RPGのように恋愛要素がほぼなくて、ひたすらに敵を倒していくストーリーの方が好みだった。乙女ゲーの絵のテイストが苦手だったということもある。登場人物全員が腹の底に悪意を抱えているような顔に見えた。昔から少女漫画を読んでこなかったことも一因だろう。小学一年生の頃から毎週おじの家にあった週刊少年ジャンプを読んでいたので、夢小説を読んでいるくせに、原作の好みは男子よりだった。

大学進学とともに上京して、おじの家に行かなくなったため、週刊少年ジャンプは読めなくなってしまった。別に買って読むこともできたのだが、心はもうゲームの方に傾いていた。高校までは親の目があってゲームができなかったが、今の私にはゲームがある。パソコンもある。廃人になる準備はできていた。

だからゲームをして、キャラクターの夢小説をインターネットで読み漁る日々を送った。大学生らしく彼氏とデートをしたり、サークル活動をしたり、真面目に授業に出るべきだったのだろう。女子大生ブランドを生かして、今でいうパパ活みたいな派手な遊びもできたかもしれない。それでも私はゲームをやり続けた。たった一人で。そんな自分はダサくて、本当に嫌いだった。

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そんな中、高校時代の同級生に誘われて、数名で飲みに行った。そこで「なんかオタクみたいな格好してるね」と言われたことがショックで、ますます自分のことを恥じて、誰とも会いたくないと思うようになった。自分の通っている大学が第希望くらいだったから、バカな私を世間にさらけ出したくなかったという気持ちもあった。だから現実逃避に走った。そして、どこにも行けなくなってしまっていた。

私は迷子になっていた。人生は暗いトンネルで、私のことをわかってくれる人は誰一人いないと思っていた。地元にいた時から疎外感を感じていて、東京に行けば仲間が見つかると信じていたのに。頑張ればその先には良いことが待っていると聞いていたのに。そんなことはなかった。もっと孤独を強く感じたし、頑張ったのに大学受験も失敗していた。

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大学デビューもできなかった。サークルの飲み会で誰かが笑っても、ちっとも面白く思えなかった。逆もまた然りだった。私がすごく面白いと思ったことを部室で話しても、全く響かないことも多かった。それなら、と私は思った。私は私の中に引きこもればいい。

そう決めたけれど、まだまだ古い価値観に縛られていた。大学生なら彼氏とお台場でデートしなくてはならない。サークルでそれなりの地位を築いて友達を作らなくてはならない。今なら、そんなの親や上の世代からの刷り込みだと言える。そんなものに従い続けていたら他人の人生で一生を終えることになる、と。しかし当時の私は違和感を感じながらも「こうしなくてはならない」と戦い続けていた……。そうしているうちに、ぱっとしない大学生活が終わった。

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会社員を経てライターになったある日、某出版社のメディアで連載をさせてもらえることになった。それは恋愛小説だった。私は夢小説以外の恋愛小説は読んだことがないし、ミステリー小説やノンフィクションの方が好みだった。読者に受けるものが書けるか自信がなかったが、書いてみたらバズりにバズった。

確かに私は、恋愛小説を読む女子がどんな気分になりたいかを知っていた。どのくらいのペースで気持ちよくなりたいかも分かっていた。あぁ、と私は思った。大学時代にひたすらゲームをやって夢小説を読んでいた日々は、ここにつながっていたのだ。

今はまた別の出版社で、恋愛小説の連載が始まろうとしている。昔から大好きだった雑誌のメディアで、大学生の頃から読んでいた。そこで連載できるなんて、暗い部屋で一人でパソコンを叩いていた当時の私は、夢にも思わなかっただろう。

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一人でゲームをして、キャラクターの二次創作を読み漁り、「恥ずかしいな。こんなの何にもならないのに」と思っている子がいたら、大丈夫だと伝えてあげたい。その「学び」は意外にも、未来のあなたに繋がっているから。