私の大学は、文系の学生と理系の学生が同じキャンパスで過ごすワンキャンパス制だ。だから、文系の私でも理系の授業を取ることが出来る。中でもお気に入りは、生物学の授業だ。

人体や遺伝子の構造・仕組み。高校の生物基礎で出てきたことがある単語がいくつも並んで、でも高校の時より複雑な専門知識をぶつけられる。それがたまらなく面白くて、知れば知るほど、好奇心を掻き立てられた。この気持ちは高校の時から何も変わっていない。だからこそ、目を背けてきた後悔が視界の端にチラつく。

◎          ◎ 

高校1年生の夏、大きな決断をしなければいけなかった。文系に進むか、理系に進むか。高校に入学して、初めての大きな選択だった。私は思い悩んだ。なぜなら、好きなのは理科だったけれど、得意なのは国語だったからだ。

好きなことか、得意なことか。どちらを選べば私は後悔しないのだろうか。何の経験もない普通の高校生には、甲乙つけられなかった。周りのクラスメイトは初めから一択しかなかったように、自分の道を進んでいく。焦って、悩んで、私だけ三者面談の時間が倍になった。

結果として、私は文系を選ぶことになった。担任からのアドバイスがあったからだ。「もし大学進学を望むのならば、成績は高く保っていた方が良い」と言われ、数学で良い成績を取れない私では戦えないと判断された。もやもやした気持ち、周りの大人への反抗心からしばらく不貞腐れた。だが時間は待ってくれない。選ぶしかなかった。

◎          ◎ 

高校2年生になり文系に進んだ。私は特に現代文・公民の2科目で苦労せずとも良い点数を取ることができた。だが理系の科目への未練を捨てきれず、文系でも授業を受けることができる理系用の基礎科目もとっていた。おかげで理系科目の面白さに気づき、特に生物に夢中になった。同時に現実を見た。

担任が予想していたように、数学ができないため化学や物理の成績は振るわなかった。面白いと思える生物を学べた代わりに、全体的な成績は文系科目のおかげでかろうじて平均と言えるといった程度だった。

こんな状況に再び担任からの指導が入る。「大学進学したくないのか?中途半端なままではいけない。3年からは文系に集中しなさい。」そう言われ、私は反抗心も湧かなかった。なぜなら、自分でも理系科目で良い成績が出せていないことを自覚し、正直ショックを受けていたからだ。

◎          ◎ 

「好きだから」だけでは通用しない現実を知った。分かっている。自分が好きなことに、私は才能を持たなかった。

でも、それでも好きなことを捨てなければいけないのか?周りの大人は大学進学のためと口を揃えて言うが、本当に好きなことを犠牲にしなければいけない未来を大事にして何になる?もし強い芯を持っていれば、周りの意見など目もくれず好きなことに邁進するだろう。

もし器用に理系科目をこなせれば、担任も私を応援しただろう。自分の弱さや才能の無さに唇を噛むしかなかった。この時は。

大学生の今、文系でありながら生物の授業をとる。選べる理系の授業は少ない。才能はない。中途半端かもしれない。それでも文系・理系の枠に囚われて後悔したあの時を取り戻したい。少しでも自分の好きを取り戻したい。今になって気づいたことだが、得意ではなくても、好きなことならば手放すべきではない。

なぜなら、好きなことは継続力を生み、自分の個性の一部となるからだ。実際に、授業や課題をとても楽しくこなし続けられている。そして、授業で新しい友達ができ、文系だが理系のコミュニティを持つヤツと言う個性になった。

高校の時に理系を選ばなかったこと、大学になって足掻き出したこと。私がやっていることは正解ではないかもしれない。だが、好きなことを諦める必要もないのではないか?楽じゃない。苦しい時もある。一度は諦めた。それでも好き。それが私にとっての理系だ。