起きられない。金縛りのように体がこわばり、腕に力が入らない。なんとなく頭が重く、ひどいときは耳鳴りもする。これが私の日常、朝の始まりである。

高校1年生の冬、ある日突然電車で倒れ、ほとんど意識のない状態で病院に運ばれた。点滴を打ち、診察を受けた結果は『ストレス』。強いストレス状態が続くと、体が自分を守ろうとし、かえって自分を攻撃してしまうことがあるらしい。

「テスト前だから頑張り過ぎちゃったのかな?」先生の明るい声を聞きつつ、私は隣でめちゃくちゃゲロを吐いていた。そしてなぜかこの日を境に、朝起きられなくなった。

大人になった今ならある程度想像がつく。おそらく原因は睡眠不足。私は元々8〜9時間寝るタイプだったのだが、いわゆる進学校に入学したことで成績が一気に下がり、深夜まで勉強せざるを得なくなった。そのせいで睡眠時間は4〜5時間に激減。

結果、成績はなんとか持ち直したものの、引き換えに体内時計が狂ってしまった。

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私は3年生になっても起きられないままで、もちろん大学受験も失敗した。滑り止めで受験した大学に滑り止まり、全然興味のない学部に入学した。

それが「文学部日本語日本文学科」。なぜここを選んだかと言うと、最初に目に入ったから。入学願書の1番上の行が文学部で、1番左端が日本語日本文学科。絶対行かないと踏んで適当に丸を付けた結果、まんまとそれが現実になってしまった。

しかし、これが人生最大の転機となる。

滑り止めに行くのが不本意すぎて撃沈していた私は、入学式の挨拶も話半分に聞き流していた。新入生はみんなアホそうだし、中には式が始まってもだらだら喋り続けている人もいる。来賓祝辞とか在校生の言葉とか全部しょうもない。校歌斉唱もいらない。

そんな感じで、私もアホな新入生よろしく、態度悪く斜に構えていた。しかし、学長の言葉だけは頭に残っていた。社会人の本分は仕事ですよね。ということは、学生の本分は勉強。勉強にちゃんと取り組めない人が、社会人になって仕事ができるでしょうか?」。

……私は何のために大学へ行くんだろう。たしかに学生の本分は勉強だ。私は大学へ勉強しに行く。それはそうとして、私は何を勉強しに行くんだ?親に学費を払ってもらって、1人暮らしまでさせてもらって、私は何を学びに行くんだ?

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そのとき、私は高校時代の辛かった日々を思い出した。学校に行けず、リビングの窓から下校中の小学生を眺めていたこと。休むたびにFAXで送られる宿題が目障りだったこと。ぐちゃぐちゃに丸めて捨てた宿題に母がアイロンを当ててくれたこと。シャワーを浴びながら流した涙。午前10時の耳鳴り。そして、勉強したくてたまらなかったこと。

そうだ、私は『勉強』がしたかったんだ。奪われた高校生活を取り戻したい。奪われた学びを取り戻したい。何でもいい、とにかく知識がほしい。それが将来どんな役に立つのかは関係ない。

勉強できる環境がいかに尊いものか知ってしまった今、これからまた勉強できるチャンスを目の前にして、どうしてそれを捨てられるだろうか?「何で普通に生きられへんねん」と呪詛のようにつぶやいていた日々は過去となり、今、私は新しいステージに立っている。

その後、私は4年間死に物狂いで勉強した。興味のある無しに関わらず、貪欲に学んだ。どの授業も毎回1番前の席を陣取り、先生の言葉すべてをノートに書き写した。周りから真面目すぎと笑われることもあったが、心の底から楽しかった。その結果、私は文学部を主席で卒業した。

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大学卒業後は、また体調を崩したり、ストレスで眠れない日もあった。しかし、どんなにしんどい状況になっても、学生時代を振り返ると力が湧いてくる。

苦しい高校生活を乗り越えすべてを取り戻した経験は、いつでも私の背中を押してくれる。30歳になった私から高校時代の私に送ろう。「思い描いてた『普通』じゃないかもしれへんけど、今めっちゃ楽しいで」。