去年、平日の休みに、実家の近くの農協で、満期になった定期預金を解約をした。
通帳を窓口係に渡してから、時間がかかるので、椅子に座り、スマホを見たり、職員が仕事をする様子をぼんやり眺めて過ごしていた。

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職員の中に、一人だけ知っている男性がいた。支店長である。近所の人であり、私と年齢が変わらない三姉妹の父であることは知っていた。
支店長が、同世代の女性と談笑している。

女性が「相手はいないんですか?」と言い、支店長が「まだ下の子は片付かなくて」と答えたのが聞こえた。
それだけしか聞こえなかったが、自分の娘の結婚の話をしているのは、理解できた。
そのような会話が、カウンターを挟んで、客である私に聞こえたのは、何かクレームを言いたくなった。仕事中に何を言っているのか。

何人か客もいたのに。
農協を出て、帰宅してからも、その会話、その接遇意識の低さについて考えた。
私は就職活動の時に農協から内定をもらっていたので、そちらに就職しなくて良かった、と心底思った。県内東部を管轄する農協なので、支店は多くて、ここが異常だと思うが。

人口一万人足らずの小さな町だ。支店長の3人いる娘のうち、長女、次女が結婚しているのは、私の両親から聞いて、知っていた。次女は私より一学年上、三女は私より一学年下だったのを考えると、未婚の三女だって、まだ25、26歳だ。

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「片付かない」という言葉は私の父や祖母と同じ考え方だと思った。

私は県外の大学に行くために家を出たが、卒業後は実家に戻り、地元に就職した。
しかし、「早く結婚しろ」「早く彼氏を見つけたほうがいい」「彼氏はいないのか」…そういう言葉に苦しさを感じて、4年後、転職を機に、また実家を出たのだ。

そのような言葉を言うのは、「結婚して親を安心させろ。親は先に死んでしまうので、将来を共に過ごす相手がいた方がいい」という優しい気持ちがあるのだと推察する。

しかし自然に学生生活、社会人生活を送り、私に好意を持ってくれる人もいたが、関係を築くことが難しい。
マッチングアプリを利用して会ってみたり、婚活のイベントに行ってみたが、「あまり異性と付き合いたいと思わない」という結論になる。しかし一人暮らしが寂しくなる時もある。

私の友人でも、結婚していく人も、一人を楽しんでいる子も多い。
「結婚したいから婚活、恋活する」よりも「この人とずっといたいから結婚する」が理想、と話していた友人にすごく共感したことがある。

一度、従姉妹に「父に早く結婚しろって言われてさ〜」と言ったら、「叔父さん、色々うるさそうだよね。うちの父は全然。私は一人が楽しいからまだ良いかなぁ」という言葉が返ってきた。

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以前、体調を崩した時に、カウンセリングを行った時に気づいたが、私は「親孝行しなきゃ。親のためにイイ子でいなきゃ」と無意識に考えてしまうのだ。
一人暮らしをして、自分の生活に集中すると、「一人は気楽でずっと独身でもいいなぁ」と思う。

このエッセイを書いている今日も、実家に帰ってきたら、「彼氏はできた?ばあちゃんは22歳で結婚したよ」と祖母に言われた。祖母の時代と比べないでほしい。その祖母は死ぬまでにひ孫を抱きたいと言う。私以外の孫も結婚が難しそうな性格なので、その夢は無理かもしれない。

子どもが欲しいかどうか、卵子凍結についても、友人と議論したことがあるが、私自身が生きていて苦しいと感じる事が多く、子どもにそのような苦しみを感じて欲しくないので、産みたいとまだ思わない。

「子どもが好き」と言う人もいるが、私はそう思わないし、育てる自信がない。
大学でジェンダー論の授業を受けて気付いたが、家父長制、男尊女卑がまだ残る家で育った。

父や祖父は仕事をするだけ。母や祖母は仕事をした上で、家事育児をする。そのような苦労を見ているので、私は結婚に憧れが無い。

男女平等、というのは体の構造上、無理だと思う。
しかし出産にはタイムリミットがあるし、子宮や卵子に詳しくなる、28歳の夏。