「あんたはほんま、しょうもないな」
これは姉が私によく言うせりふだ。私は姉に勝てない。子供の頃から姉は私の先を行く。気が強く、口からは次々と言葉が吐き出され、喧嘩で勝てたことは一度もない。勉強も女の子らしさも姉が上だった。
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唯一勝てるのは水泳くらいで、京都2位までになったが姉にはどうでもいいことだった。姉には私が視界に入っていない。そう、姉は私に興味がないのだ。
結婚も姉が先、妊娠も姉が先、姉妹の順番で言えば正当な順番だとは思うが、結婚して1ヶ月で妊娠できた姉、私は3年不妊だった。結婚も妊娠も出来るには出来たがなにかが足りない。姉より劣っている。姉は私のコンプレックスだった。
私が妊娠したとき姉は2人目を出産したところだった。初めてのつわりで弱音を吐くと、姉はハッと鼻で笑い、姉は「私は出産するまでつわりがあったけどね」と言った。
気を紛らわせるために夫とYouTubeを見ていると「よくこんなしょうもないもん…」とお気に入りをこき下ろした。
出産方法も姉は2人とも経膣分娩、私は帝王切開。帝王切開が劣っているとは思わないが私も出来るなら自然に分娩してみたかったという気持ちが消えない。
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出産後、ちょっとした諍いから姉との連絡を絶った。それでも頭の中から姉が出て行くことはない。事あるごとに姉と比較してしまう。育休を明けてからも正社員で働く姉とは反対に妊娠後仕事を続けられず辞めてしまった無職の私。惨めだった。
子供が1歳になる頃パートを始めた。実母から妊娠したときに「頼らんといてな」と言われ、両親の手助けがないのでなかなか正社員の仕事が出来る状況になかった。仕方なく近所の町工場で働くことにした。
仕事は向いており楽しく毎日出勤していたが、このままで本当にいいのか?こんな私を姉はまた馬鹿にするんじゃないのか?と考えだし、私も正社員になり姉と肩を並べられるようになりたいと思い始めた。
このまま姉と比較し、自分を卑下するままではいたくない。そんな姿を子供にも見せたくない。私だってこんなに出来る、私はしょうもない人間じゃないと示したい。そう思い始めるといても立っていられなくなり、まずは育児と仕事の合間に国家資格を取ってやると意気込んだ。
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手始めに危険物乙四という資格の勉強をした。いろんな場面で有利になる資格だと思ったからだ。高校の化学物理、法令、普通に生活していると関わることのない分野に最初はちんぷんかんぷんだったが毎日少しずつ、試験までの3ヶ月半、1日1時間勉強を続けた。
かなり強行だったが試験は直近を選んだ。短期集中の方が自分には合っていると思ったからだ。家事、育児、仕事で時間のない中、勉強時間を捻出するということは何かの時間を削らなければいけなかった。育児、仕事の時間を削っては元も子もないので自分の休憩時間を削った。
トイレの中、仕事が終わってから子供を保育園に迎えに行く合間、子供が寝付いた後。休日は夫に子供の寝かしつけを任せ、近くのカフェで勉強した。キツかった。疲れ果ててもう止めてしまおうかと何度も思った。そんな時は姉の顔を思い出し負けられないと自分を奮い立たせた。
結果は見事合格。報われた気持ちだった。多分このことを姉に言ったところで「その資格がなんかなんの?」と一蹴されてしまいそうだが、私にとっては確実な進歩となった。資格があることで就職にも有利になる。それに資格をとれたことより、日々勉強する習慣は大きな恩恵となっている。
こうして少しでも姉のいう、「しょうもない人間」からましな人間になって、自分の中の姉に打ち勝つほどの力をつけていきたい。私は今まだ始まったところだ。これから新たに正社員への道を試みている。