これは、私がバドミントン部に所属していたときの話だ。当時私は一つ下の後輩とダブルスを組んでいた。

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彼女は、私より上手かった。そして、私より勝つことにこだわった。
彼女は、試合に負けたら悔しさを惜しげもなく出した。
それを見るたび、負けたのは私のせいだと思った。だから「ごめん」と謝った。それ以外、どうしたらいいのか分からなかった。

そんな私たちのダブルスが結果を出せる訳がなかった。
私たちは、負けたくないという気持ちは一致していた。でも、負けたくない理由は一致していなかった。私は、ただ負けるのがこわかった。

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そんな調子のまま、私にとって最後の大会が近づいていた。それは、私と彼女のダブルスの終わりを意味していた。
最後くらい笑って試合を終えられたらと思っていた。そのためには、私が強くならなくては、足を引っ張らないようにしなくてはと、より強く思った。休憩時間も惜しむくらい、これまで以上に練習に励んだ。

しかし、いくら練習しても思うようなプレイは出来なかった。そんな状態のまま、大会当日を迎えた。試合はトーナメント方式だったので、一試合でも負けたらそこで終了だ。これで最後かもしれないと思いながら、一回戦に挑んだ。

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すると、不思議なことが起こった。今まで何度やっても試合で出せなかった手や足が、気付いたら出ていた。初めての感覚だった。これが自分たちのバドミントンなのかもしれない。最後の最後に見つけられたのかもしれないと、私は期待した。そして彼女と目を合わせた。彼女は力強くうなづいた。

試合の主導権を握った私たちは、1セット、2セットとストレートで勝ち取り、1回戦を突破した。2回戦も勢いに乗り、気がつけば3回戦にこぎつけていた。

3回戦の相手は、地区一の強豪校のエースで、全国大会でも成績を残すような選手だった。結果は見えていた。きっとここで負けるだろう。でも来れるところまで来た。なんせ1回戦負け常連の私たちが、3回戦まで来たのだ。私は満足していた。彼女も満足してくれるだろう。そんな気持ちで、3回戦に挑んだ。

気持ちはすぐにプレイに現れる。3回戦の私のプレイは、すっかり元通りだった。文字どおり、手も足も出なかった。私と彼女のダブルスはあっけなく終わった。相手は強かった。でも、それだけじゃなかった。

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試合の後、彼女は泣いていた。
笑って終われなかった。最後までやっぱり私のせいだと思った。ごめんと思った。足を引っ張ってごめんと思った。

しばらくすると彼女はこう口を開いた。

「先輩の最後の試合だったから、やり切って欲しかったんです。もっと出来たのに」

私はようやく気がついた。彼女が求めていたのは、ただ勝つことじゃなく、自分たちのバドミントンをすることだったのではないかと。

私が見るべきは、彼女のご機嫌ではなかった。勝つことにこだわっていたのは、私の方だった。