スポーツは選択肢の一つだった。「これがやりたい!」と望んでするのではなくて、いつも私にとってはいくつかある方法のうちの一つにすぎなかった。

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中学。みんな何かの部活に入るのが”普通”だった。だから友達ができそうなテニス部に入った。文化部の選択肢もあったけどどこか内気な子でおとなしい子が選ぶ雰囲気。だから私ははっちゃけてキラキラした友達ができそうなテニス部に入った。

高校。運動部は中学よりも本格的になる雰囲気があった。きつい練習をして大会に出て勝った負けたで一喜一憂する。そんな空気は自分には合わないと思い、美術部に入った。

でも体育祭ではリレーの選手になってみた。リレーは花形の競技だ。そこで目立てば先生からの評価がよくなる気がした。大学の推薦に役立つかもしれないと言う気持ちでクラスメイトのバトンを繋いだ。

大学。体育の授業があったが強制ではなく選択科目だった。座学でテストを受けるよりも楽に単位を取れる気がした。だから選んでみた。1限の朝イチの授業だったが、休まず寝坊しないできちんと出席をした。どんな内容だったかは正直眠気で覚えていない。出席点が取れればよかった。

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社会人。新入社員になった私は社内報に載せる自己紹介を書くことになった。趣味の欄があったが特に書くことが思い浮かばない。そんな時に好きなアイドルがキックボクシングを始めたと言うSNSを見かけた。私も趣味をキックボクシングにしてみたらちょっと社内で目立つんじゃないか?そう思ってとりあえず体験に行ってみた。

学生時代の体操服しか持っていなかったから、トレーニングウエアをユニクロで買って身なりの準備を整えて緊張しながらジムのドアを開けた。そしてこの日初めてグローブを手につけた。

格闘技は未経験。その上大学1年の時以来の運動だから息が持たない。ぜーぜー言いながらのなんとか1時間体験を乗り切った。まあ、できないことはないな。と思って入会した。社内報の趣味欄の為に。

働き始めると当然だけど運動を強制されたりそもそも運動をする機会を与えられない。仕事の為に体力を使う生活になる。そんな毎日の中で自分でウエアを持ってジムに行き、ミットを打ってシャワーを浴びると言う行動をする。なんだか自由に自分の意思で行動を起こして運動ができた気がした。

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社会人3年目になった。私はもう新入社員でもなんでもないけどまだキックボクシングをしていた。アイドルの真似事が始まりだったかもしれないけど、無数にある運動の中からキックボクシングを選んで無数のジムから今の教室を選んだのは間違いなく私。この状況は小学生の時にもあった。

小学校。水泳を習っていた。きっかけは学校の水泳の授業。水に初めて顔を付けられたのが楽しくて親に頼んで選んだ習い事だった。他にもピアノや習字にも通っていたがそれは姉がやっていたから。羨ましくて始めた習い事ばかりだったけど水泳は唯一自分の意思で始めたものだった。その時に似ている気がした。

いつからか無邪気さを忘れて運動をただの「方法」としていたような気がする。だから中学高校大学は「ここから選びなさい!」「今後役に立つかも」そう言う形で運動を選んでいた。社会人の今は小学校の時よりも思考は働くし世間体は気にするようになった。でも楽しくて給料が上がるわけでもないのに無意味にミット打ちを続ける私がいる。

小学生の時に夢中でクロールをしていた自分に似ている。部活も習い事も何も続かなかった私はキックボクシングが2年続いた。

スポーツが何かの目的のための方法や手段ではなくて、小さい頃に目的もなく泳ぐような。そんな純粋な「やりたい」でできている気がした。自分で選び取る運動は楽しい。