子供の言うことは、たいてい大袈裟だ。ちょっとしたかすり傷でも、まるで致命傷かのように騒ぎ立てる。ショックな出来事があれば、この世の終わりかの如く大泣きする。そんな大袈裟に言わんでもと思わずにはいられない。私の娘も、例に漏れず大袈裟に振る舞う。正直、勘弁してほしい。

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今年で年長になる娘は痛みに弱い。ちょっと転んだだけで号泣し、骨が折れたと大騒ぎする。同調してみたり慰めてみたり、時には注意してみたり。しかし、彼女の反応は決して変わらない。たまになら良いのだが、数日連続で起こると途方に暮れてしまう。

ある日、娘が喉が痛くて耳が痛いと言うので耳鼻科へ行った。喉が少し腫れているから、それで耳が痛いのかもということだった。喉の炎症を抑える薬をもらって、様子を見ていた。ところが病院に行って喉が腫れていると言われてから、「喉が腫れて痛すぎてごはんが食べられない」とのたまうではないか。病院に行くまでは喉が痛いしか言ってなかったやんけ!

という言葉を飲み込みながら、看病をする。その内、「熱が出てきたかも」とうので測ると平熱を繰り返すばかり。SNSでよく見かける風邪で大騒ぎする旦那を思い出してしまった。

もらった薬を飲ませつつも、一向にマシになる気配はなかった。それどころか日に日に悪化して、水を飲むたびに「痛すぎて死ぬ」と泣くではないか。痛みと泣きすぎのあまり、吐いてしまった。流石に変だと思い、吐いたものを処理して急いで小児科を受診した。するとやはり、「喉はほんの少ししか腫れてない」と言われ途方に暮れてしまった。だが、その後に先生は続けた。「もしかしたら手足口病かもしれません」。

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おそらく娘の口の中に水泡ができており、その水疱に刺激があると激痛が走るようだった。娘を励まし、時には叱りながらも脱水にならないように気をつけていた。この時、私はまだかわいそうだな、でも子供って本当に大袈裟に物事を伝えてくるなと甘く見ていた。そう、この時までは。

娘が良くなっていくにつれ、私の喉に違和感を覚え始めていた。クーラーを入れ始めたし、喉がやられたのかなと思い特に気にしていなかった。だが、昼頃になるにつれ頭痛がし始めていた。低気圧かな、薬でも飲むかと思うが、しんどさが募るばかり。ソファに横になり、熱を測れば38度を叩き出していた。これは、ただごとじゃないーー。

私自身、これまで風邪にもほとんどかからず、インフルエンザや流行病にかかったことはなく、健康なことが自慢だった。久しぶりの高熱でびっくりしつつ、私も病院で診察してもらうことになった。喉を診てもらった瞬間、「手足口病だね」とあっさりと告げられた。あ、うつったんだ……。

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最初は喉が痛いながらも、水分も食事も摂れたので大したことないなと油断していた。ちょっと痛みがあるぐらいで、全然我慢できる。「これぐらいで大袈裟だなあ、娘よ」と笑っていた。しかし、その数時間後には手足に湿疹ができ始めていた。本当にできるんだと思わず驚いた。娘は喉の痛みだけで、湿疹や高熱はなかったのだ。痛痒いったらない。まるでしもやけになったみたいだ。

手足口病を治すには、日にち薬とのことで薬で症状を抑えて過ごすしかない。しかし、薬を飲んだところで喉の痛みが治まることはなく、段々口の中で痛みが広がり始めた。常に口の中が刺激がある状態になり、水を飲み込むと涙目になってしまう。その時、私は気がついたのだ。これ、ヤバいやつだ……。

大人だから、水分を摂らないと危険な状態になるとわかっている。なので、痛みがあっても我慢して飲む。食事を摂る。薬が苦くとも我慢して飲むだろう。では子供だったら? はっきり言って無理だろう。私も子供の頃なら、きちんと対処できていたか危うい。痛いものは痛い。嫌なものは嫌。経験が少ないから、自分の行いでどうなるのかわかっていない。そりゃ重症化もしやすいだろう。

今やすっかり元気になって上機嫌な娘を見て反省する。子供は決して大袈裟に騒いでいるわけではないし、大人がきちんと見守らなければ危険な目に遭うのだ。親になってわかった気になっていたけれど、改めて気を引き締めねばならないと誓った。

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娘よ、大袈裟に騒いでるなんて思ってごめん。これからはもっと冷静にあなたの様子を見るね。もっと思いやりの心を持って接したい。これはきっと娘のことを軽んじていた私に天罰が下ったのだと思う。娘と同じ経験をして、嫌というほど実感した。もっと人の痛みに敏感になろう。おざなりな対応はもうやめよう。できることならもう二度と手足口病にはかかりたくない。同じ体験は二度とごめんだ。

あれ以来、娘の痛みの訴えに対して寛容になれた気がする。何はともあれ、家族みんなで健康第一に過ごしていきたいものである。