マッチングアプリを作っている人と出会った。

とある都内のイベント。初対面の人が数名集まっていた。雑談の時間があったので、隣にいた男性となんとなく話をした。「どんなお仕事されていますか?」社会人の鉄板なトークテーマを投げかけると面白い回答が返ってきた。どうやら彼はマッチングアプリで起業しているらしい。

楽しげに話をしている彼の話に耳を傾けていると、アメリカの大学に留学していたことがあるという。また、面白い話が出てきた。私が見たことがない景色をたくさん味わってきたんだろうな、と少し羨ましくなった。

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慣れない海外の暮らし。英語で進む勉強。苦労はあったそうだが、大学在学中の寮生活はとてもよい思い出だと語ってくれた。彼の寮ではよくパーティーが開催されていた。見知らぬ人が集まる週末。一緒に食事をしたりゲームをして友達ができることもあれば、恋人にまで関係が進展する人たちもいたという。

偶然同じキャンパスに通っていて偶然パーティーに参加して偶然一緒のご飯を食べる。その偶発性から人が繋がっていく景色は忘れられない、そう語る彼の言葉は弾んでいた。

日本にってきてからその感動をどうにか社会に反映できないかと考えた彼は、マッチングアプリを作った。システムでランダムに人と人とをマッチングさせてコミュニケーションが取れる。そんなアプリを。

ただ、一般的なマッチングアプリとは仕様が異なる。よくあるパターンとしては、相手の性格や趣味が書かれたテキストを読んで、気になる人が見つかればメッセージのやりとりへと進む。「たまたま気になった」というより「探して調べて気になった」というニュアンスに近いと思う。事前に相手の情報を把握しているからこその安心感や、ちょっとした親近感も抱くかもしれない。

対して、彼が挑もうとしているマッチングアプリのシステムは見方を変えれば少し怖い面もある。当然彼のアイデアはなかなか世の中に受け入れられず開発に苦労している様子だった。私も彼の作っているアプリの名前は聞いたことがなかった。

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私はネット上で恋人探しをしたことがない。だからマッチングアプリや出会い系サイトの実態を自分の身で経験したことがない。

そんな私の耳に入るのは悪い話ばかり。写真と違う人がきた、付き合ったけどすぐ別れた、詐欺に遭った……。どんどん悪いイメージが出来上がっていって触れてはいけない種類の話題という存在になった。

しかし、会社の同僚がマッチングアプリで出会った人と結婚した話をふと思い出した。私の中の悪かったアプリに対するイメージは少しよくなったが、結婚式で流れる二人の馴れ初めのムービーではマッチングアプリに関することは伏せられていた。

後から話を聞くと、新郎新婦、どちらの両親にも「友達の紹介で出会った」と伝えているそう。やっぱり世間的にも後ろめたい部分があるかもしれない。

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そんな時に出会ったマッチングアプリの開発者。彼は自分が経験した素敵な偶発性の出会いというものをみんなに提供したいと考えているように思えた。

私はどちらかというとアプリの利用者。作っている人の気持ちや思いなんて考えたこともなかった。ちょっとマッチングアプリの印象が変わった。彼は今もアプリの開発に猛進していることだろう。

もし私がマッチングアプリで出会った人と家庭を築いたとして、二人の出会い方について周囲に話せるだろうか。その答えはまだ出ていないけど、またひとつマッチングアプリに対する視点が増えたように思う。

私は彼に遭っていなかったらアプリを作る側の気持ちを考えることはなかっただろう。偶然の出会いの大切さをまさに彼との会話から学ばせてもらった。