中学校の運動会では、団画なるものを描かなければならない。
ど田舎の中学校に、残念ながら美術部は存在しなかったので、絵を描く人材といえば、部活動に所属しておらず、比較的暇で比較的絵に自信のある人間が立候補で団画を制作した。私も自薦で参加した。
絵を描くのは好きだ。部活も辞めたばかりだったし、人手不足ならやったろけぇ、程度の気持ちで参加したのだが、参加人数は僅か3人。期間は6月から8月夏休み明けまで。キャンバスは大体2mの正方形。言わずもがな、夏休み返上で制作に当たらなければならない。
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軽い気持ちでやると言ってしまったことを少し後悔しつつ、早々に夏休みを諦め、たった3人でまずは団のモチーフとなるキャラを考えた。
なるべく有名なアニメがいい。男女共に人気が高く、赤団なので戦闘系のジャンプ的キャラ。私の学校では過去にワンピースやドラゴンボール、銀魂などがモチーフになっていたため、それらは避けたい。
そんなこんなで辿り着いたのが、Dr.スランプのアラレちゃんだった。これしかない。
すぐに団画の担当の先生に意見を挙げた、のだが。
「なんで?」
これしかない、と思った意見に、それはそれは真顔で理由を尋ねられた。なんで?とは?
「なんで今の時代にアラレちゃん?しかも赤じゃないじゃん。自分本位でこれにしたんじゃないの?団員のこと考えてる?」
職員デスクに肘ついて、手のひらに顎を乗せて、足を組んだ状態で問われた。候補に挙げたアラレちゃんを真っ向から否定してくる姿勢に、私の後ろにいた2人が怯むのがわかった。
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言わんとすることは理解できた。確かに鳥山明作品で言ったらドラゴンボールのほうが知名度高いし、赤団のモチーフにするにはワンピースのシャンクスとかのほうが適任だ。私がアラレちゃんを好きだからという理由は図星だったし。
だが、この先生の態度にムカついた。元より少しクセのある先生で、普段から生徒を試すような質問を好む人だった。今回も、まるで我々が惰性でキャラを決めたとでも言っているようで(ほぼ言っていたのだが)、何の苦労もしていない高みの見物から言われる筋合いはこれっぽっちもない。
理解はできるが、了解はできない。そんな思いで、後ろの2人が「考え直します」と言いそうになったのを止めた。
「アラレちゃん人気ですよ。みんな知っています」
「なんでそう言いきれるの?」
「今ハスラーのCMしてるじゃないですか」(※当時のスズキのCM)
「でも赤じゃないよね?」
「あくまで創作で模写じゃありません。アラレちゃんに赤い半被着せるとか、出来る工夫はあるでしょ」
折れてやるものか。担当がこの先生じゃなかったら、きっとキャラ決めの段階で否定なんてされなかったはずだ。最早これは団画会議ではなく、私と先生の口喧嘩の勝負だ(と勝手に私が思っていた)。
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結局、折れたのは先生のほうで、モチーフはアラレちゃんに決定した。
今となっては、半分ムキになっていた私に折れてくれたのは流石大人と言うべきだが、当時の私にとっては「納得できないことは諦めなくていい」と思える自信に繋がった。
アラレちゃんは全校生徒に喜ばれて、アラレちゃん世代の先生や保護者からも好評だった。私はというと、団画を仕上げた時点で燃え尽きて、本番はぐだぐだだった(最低)。
それでもこの出来事は私の負けず嫌いを支えていて、ついでに私は今でもアラレちゃんの大ファンである。