就活のとき、特に嫌だった質問がある。

「あなたの特技は何ですか?」

面接ではいつも答えに詰まり、ありきたりな返答で乗り切っていた。書いているときにペンが止まってしまうので、履歴書の記入欄もなくなってほしいと思うほどだった。

だって、私は何の取り柄もない人間だったから。

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高校まで勉強はまあまあ、部活は思うように結果が出なかった。人間関係に悩み、毎日を乗り切ることに必死だった。青春の思い出なんてものも、残念ながらひとつもない。

そのせいか、趣味も特技もなくて、つまらない日々を過ごしていた。

大学では、勉強で成績上位になる代わりに、帰宅部になった。それでも、成績優秀者に選ばれるほどではなかったので、勉強が得意と胸を張って言うことはできなかった。

社会人になってからも「こんな私に何ができるの?」と、相変わらず空っぽな自分を卑下していた。自分の好きなことに挑戦し、得意を増やしていく親友。仕事でどんどん結果を残して評価を上げていく同期。羨ましくて「すごいな」と思いつつ、周りに置いていかれている気がして、劣等感でいっぱいになっていく。

いつしか「どうせ私なんてダメなんだ」と、諦めの気持ちが出てくるようになった。

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帰省したときに、元気のない私を心配する母に話してみた。「私には、みんなみたいに得意なことなんてないからさ」と、さらにズーンとなった私に母が言った。

「みちるにだって、得意なことがたくさんあるじゃない!」

ただ励ましてくれているだけだと思っていたけれど、すぐに母は続けた。「字が上手だし、文章を書くのも得意でしょ? それから……」と、止まることなくどんどん私の得意を挙げていった。「みちるはこんなに素敵な子なんだよ」と言われて、嬉しいような恥ずかしいような感じがした。

別の日に、母との会話のことを友人に話した。親バカだと笑われるかと思ったけど、「お母さんの言う通りだね」と言ってくれた。
「グルメやスキンケアに詳しいし、みちるちゃんのことすごく尊敬してるよ!」
「そうかな?」
「うん!それに、周りをいつも気遣って行動できるし、私も今までたくさん助けてもらったよ」
周りと自分を比べすぎていて、単に私自身が気づけていなかっただけだった。私にもこんなに得意なことがあったんだ。

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手先がとにかく不器用な私。全然できなかった裁縫や料理も、今では人並みにできる。行きつけのお店の備品をお客さんの子どもが壊してしまったときには、ドライバーやペンチを使って直したこともある。

苦手でできないと思っていたことも、コツコツ努力して挑戦すれば得意に変えることができる。

「できないから」と簡単に諦めるよりも「やってみよう」と挑戦した方が、きっと自分の可能性を広げられる。就活のときには上手く答えられなかったけれど、今なら自分の得意なことをすぐに答えられる。私はもう、空っぽなんかじゃない。