私は完全に浮かれていた。

1ヶ月ほど前、ついにマッチングアプリをインストールした。友人からはアプリ向いてないと言われ続けてきたけど、本当に向いてないのか知りたかったのと、本気で自分の家族を作りたいと思ったから。

意気揚々とプロフィール登録をしたものの、いいなと思った人とはなかなかマッチングしない。したと思っても、メッセージが続かない。
1週間も経たないうちに、やる気がどんどん萎んでしまった。

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そんな時マッチングした1人の男性。写真の雰囲気も良いし、趣味も似ている。メッセージも返すのが苦にならない。1週間やりとりを続け、初めての電話で食事に誘われ、その3日後には初めてのデートの約束を取り付けた。
あれ、初めての割に、いい感じなのでは?もしかして1人目でもう、彼氏できちゃう?

初めて会ったのは居酒屋。顔を見た瞬間にドタキャンされるという噂も聞いていた。電話越しの人が現実に存在してることを確認できただけで、ちょっと安心した。後半には少し冗談を言い合えたり、真面目な話もできたり、いい雰囲気だったと思う。帰り際、2回目のデートが決まった。

2回目のデートでは、お互いの好きなボードゲームをしてから食事に行く流れになっていた。会って2回目の人とボードゲームをすること自体が初めてだったから、どんな感じになるのか本当に想像ができなかった。そんな不安はただの杞憂に終わった。いくつかのゲームをしたけど、純粋に楽しめて時間が過ぎるのがあっという間に感じた。

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楽しかったから、私も心を開き過ぎてしまったんだと思う。まだ2回目の相手に、曝け出し過ぎてしまった。言わなくていいことも、つい口にしてしまう。

「掃除も、料理も苦手でもいいよーって言ってくれる人と結婚したいな」

つい口から本音が溢れ落ち、しまった、と思った時には相手の口から「そんな人おらんやろ!」の一言が降ってきた。

本当に、仰る通りとしか言いようがない。元カレは掃除も料理も苦手な私でも好きでいてくれたからそんな人おらんくはないけど、元カレと比べるなんて筋違いだ。

掃除苦手だけど一人暮らしもしていたし、やることはやるんだよ、自分が作れる範囲で自炊してるし、職場にお弁当も持っていってるし。

心の中で言い訳が止まらない。

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そこから、私自身も相手の発言に少し違和感を感じるようになった。

「なんかもう付き合ったあとの未来が見えるわ」(占い師か?)
「mbti何だった?…ああ、これだと相性あんまよくないかも?」(え、それ関係ある?それ目の前で調べる時点で確かに私の価値観と合わなそうですね?)
「次デートするとしたらどこがいいと思う?……うーん、そこちょっと遠くない?笑」(え、市内ですけど?)

完全に今日きりでもう会うことはないと思っていたら、帰り際また会おうと言われた。さっきまでのハテナが嘘のように、一瞬にして脳内がお花畑。掃除も料理も苦手でいいってこと?行きます行きます!デート行かせてください!

だけど、そこから具体的な日にちも内容も決まらないまま、どうでもいいLINEが続くだけだった。もしかして私、キープされてる?

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アプリだと当たり前のことかもしれない。同時進行は当たり前だし、私も来週別の人とご飯に行く約束をしていた。
それでも、嫉妬ではない何か別のモヤモヤが消えない。
はて、私はこの人にキープされてまで付き合いたいのだろうか。

2回目のデートに行ってから1週間。次会う日にちを決めようとメッセージが来た時にはもう、すっかり「アプリで初めて会った人」。それ以下でもそれ以上でもなかった。

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そして私は懲りずに、アプリで会う2人目の人との食事の際、掃除と料理が苦手ということを打ち明ける。これで相手が私をダメと判断するのなら、2回目会う時間もお金もお互いに勿体無いと思ったから。

「そうなんだ〜!でも実家暮らしじゃないってことは、普段少しは自炊してる?え、弁当も作って持っていってるの?すごいよ〜。俺は逆に洗濯がだめだな。特に畳むのがすごい苦手!」

すでに私の脳内はお花畑であった。