夜眠れないのは、大体いつも、感情が処理しきれない時だ。
考えるともなく考え、不快な気持ちがむくむくと増幅していく。
心が休まらないから、どうもうまく眠れなくなる。

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20代半ばで、私は少しの間だけ婚活をした。
正確にいうと、「結婚したい」という思いを抱きながら、男性との交流を増やそうとしていた。これが、もう嫌になるほどつらかった。

小さい頃から、あまり男好きしないタイプだった。
学校では優等生に見られやすく、目立つほうではなかったと思う。
男性との交流は多くなく、こちらから近寄っても、どこか距離を感じた。
よそよそしさというか、落ち着きのなさというか。
だから、「私は単純にモテないんだなあ」と思いながら生きてきた。

だけど恋愛に興味がないわけではなかったので、いい加減積極的に行動しようと思い立ったのだ。

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その中で、男性からの評価を聞くことになった。

「ガードが固そう」
「心を開いてくれていない」
「冷たい」
「自分の意見を言わなさそうだと思ったのに」

などなど。

彼らの意見は、よく聞いてみるとどれも「私の反応が期待外れ」だということに帰着するように思う。

笑えない冗談や、いきなりのボディタッチ、天気の話レベルの雑談なんかに対して、私の反応が薄くて自信を失くすようだった。
こちらも話を振ったり、終始笑顔をキープしてコメントし、その場を楽しもうとはしていたのだけれど。

それでは彼らの求めるレベルに足りないらしい。
私がモテない理由の一端がわかった気がした。

好き勝手言ってくれたものだ。
彼らは悪気なく、イメージを根拠に私の人格を決めつけてかかり、ギャップがあったことに驚いているだけなのだろう。
期待を裏切った私を、ネガティブに捉えたのだろう。
でも、その責任を私に押し付けられても困る。
どうしてそんな失礼なことをしておきながら、当然のように優しく接してもらえると思うのか。

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人は見た目が重要というし、おおむね私も同意だ。
ただ、見た目から構築できるのはあくまでもイメージ、妄想である。
イメージを持つのは結構だけど、私という情報源が目の前にいるのだから、随時アップデートしていってもらいたい。

「私は気が弱くて、何をされても全力で喜び、意見を持たない、ものを知らない女です」とアピールした覚えもなければ、実際の人柄を隠してもいないのだから。

歪んだイメージが先行しているのか、こんな違和感を感じることも多々あった。

個人的には常識レベルの知識を、持っていると言っただけで「お、やるじゃん」という反応。

私の方が詳しいであろうことを、さりげに伝えても知ったかぶりをやめない。
同い年あるいはこちらが年上なのに、なぜか上から目線。
無遠慮に距離を詰めてくる。
いいなんて言っていないのに、勝手に身体に触れる。

期待しただけの笑顔がないという理由で不安がる。
私の性格はそうじゃない、そうは思っていないと言っているのに、食い下がって認めない。
子どもをあやすような口調。
生ぬるい視線。

すごく心地が悪い。

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彼らの目に映る私は、彼らと同じ人間じゃないのかな。
個性や尊厳、考えがあるとは思わないのかな。
目の前に私がいるのに、一体誰と喋っているんだろう。
女という、空想上の生き物だろうか。
私は、女という名の愛玩動物なのだろうか。

そんな風に思ってしまったら、もうこの夜と眠りで別れることはできない。
寝不足で痛む頭と、重苦しい心に涙を溜めながら次の日を過ごすことを覚悟する。

そう、私はきっと傷ついているんだ。
そして怒っているんだ。

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自傷的になるのか、ネットで検索をかけたりしてしまう。
案の定、私が”求めていた”侮蔑的な意見や、インスタントな関係を望んでいそうな女性を幾人も引っ掛ける”モテ男”の意見。

男性にしてもらったことを全力で喜べる女が愛される、という意見。
人は完璧ではないのだから、多少のことは飲み込むべきという意見。

そんなものが無限に転がっている。
そうしてまた、自分の中の夜に飲み込まれる。
眠らない、眠れないのもまた、自分の心を慰めるためなんだ。