心ときめく瞬間は、日常の一コマに眠っている。もしもそれが恋愛、とまでは言い切れなくても、ギスギスして凝り固まった心と身体を癒してくれる、ささやかなキュンは、数えきれないほどあるのかもしれない。

これが恋だ!とまでは表現できないけれど、このまえ私は思わず心をときめかせたことがあった。ときめいてしまった、と言った方が正しい。
いつも私はネット通販で洋服を買うことが多い。よく利用する通販サイトは、必ず土日は送料無料、平日は5000円以上購入で送料が無料になるというシステムだ。だから、気になる商品があるときは、週末に注文できるようにスマホをさわっているときにサイトをあさるようにしてみているのだ。

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秋服といってもまだまだ高温は続くし、秋も真夏のような猛暑日が予想されているというニュースを耳にしながらも、服とメイクだけは秋を感じていたいなあ、なんて独り言のように考えていた私は、その御用達の通販サイトでちょっぴり秋を夢見てみた。ブラウスなら猛暑日でも秋でも、ぴったりだと思った私は、モカ系かモーブピンクにも見えるリボンタイのブラウスを、カートに入れた。その日は夏のセールで、平日でも送料無料だった。ラッキーチャンスとともに新しい服をゲットした私は、気分が上昇するばかりだった。

しかし、ハプニングはこのあとだった。朝8時に、発送のお知らせというメールが送られてきて、某物流会社の配達状況は「配達中」と表示されていた。いつも届けてくださるドライバーさんなら、朝10時には商品を受け取れる。そうウキウキしていたけれど、10時を過ぎて11時になっても荷物が届かなかった。焦りを募らせた私は、もしや詐欺だろうか?と不安になった。いや、でも支払方法を代金引換にしていたから、そんなことはない。

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そして近所の営業所に連絡すると、ドライバーさんから電話をもらった。すると、「お家がわからないんです。○○弁当さんの近くですか?今日は何時ごろまでいらっしゃいますか?」

ええっ、いつものドライバーさんじゃない!しかも電話で聞いている声の雰囲気からして、なんだか頼りないおじさん、だと思った私は、さらに不安が増したし、今日中に届くのだろうかと少し半信半疑だった。とりあえず、「はい、○○弁当さんの近くです。今日は16時までいます」と質問に答えて、またわからなかったら電話しますねえ。なんて、返された。
まあ、いつも朝、発送のお知らせというメールが来て、当たり前のようにその日のうちに来るはずだと、確信していた私も、悪かったのかもしれない。だって荷物が送料無料で最短日~日で届くのは、決して当たり前なんかじゃない。毎日、それぞれの依頼主が待っている場所に荷物を届けてくれるドライバーさんがいるからなのだ!

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そうやって冷静になろうと、自分に言い聞かせていると、また電話が鳴った。多分、近くまで来てるけど、わからない。どんな車が止まってますか?
というから、ガレージの車の特徴を言った。
そして、やっと念願の秋服と私はご対面できたのだった。電話で回ほどやりとりしたそのドライバーさんとも。
玄関のドアを開けると、てっきりおじさんのドライバーさんだと思っていた私は、ひっくりかえりそうになった。自分と同じ歳、年下のようにも見える若いお兄さんのドライバーさんだったからだ。正直、こんなに遅いなんて思っていなかったから、着いたら少し不満でも言おうとも思ったりしたけれど、自分と同世代の人が頑張って仕事してるんだと思うと、そんなの口が裂けても言えないと思い知らされた。

聞くところによると、普段はトラックに乗る仕事をしていて、町中を走って自宅に荷物を届けるのは初めてで、住所もわからなかったそうだ。
なんだか不安とかふっとんで、ドライバーのお兄さんの恥ずかしそうにしながらも、申し訳なさそうに振る舞う姿に、私は、なんだかキュンとしてしまった。