どうしても眠れない、眠りたくない、なんていう夜を私は何度も経験してきた。そんな思いを抱えて迎える夜明けは、なんだか美しいような、そして切なく眩しくもあった。

今から10年ほど前の大晦日の夜、私は京セラドームにいた。とある男性アイドルグループのカウントダウンライブに参戦するために、京セラドームまでやってきたのだ。当時、そのアイドルグループが所属している事務所のアーティストが勢ぞろいで、東京ドームでカウントダウンライブを開催していたので、貸し切りできるのは京セラドームだった。

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いま、令和の時代では「推し活」が流行っていて、「推し」という言葉が浸透してきているが、その当時はまだ「推し」という言葉すら知られていなかったように思う。でも、私はそのころから既に推し活に励んでいた。自慢ではなくて、自己満の世界だからこそ果てしなく「推し」を拝むために、あちこち旅に出ていたのを思い出す。

そんな私が過ごした眠れない夜は、もちろん「推し」が眼の前にいるカウントダウンライブのことである。だって、推しと年を越すというチャンスが、この先訪れるかわからないから、あのとき京セラドームで参戦したライブは、一生の宝物にしているし、この先もしたい!のだ。

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ここまで「推し」に対する想いを綴っておきながら、肝心の名前を書かないのはどうかと思うので、一応何となくあのグループかな?とイメージしやすいように、書いていきたいと思う。2006年に某男性アイドル事務所からデビューした、6人組のグループを、私は2011年~2012年ごろ、好きになったのだ。特にそのグループに所属しているメンバーの一人が、妖怪人間ベムというドラマで主演を務めていた。そう。私はそのドラマに出演していたメンバーを好きになってから、6人組グループのライブに行くようになった。令和の今どきっぽい表現をすると、推すようになったのだ。

カウントダウンライブは大晦日だということもあり、大寒波のなかグッズを買うために長い列に並んだ。開場時間になると、私はやっと会える、初めて好きなアーティストと年を越すんだ、と心をときめかせていた。来年の抱負なんて、まったく考えていなかったのだ。当時はまだ小学6年生だったので、今思うと、贅沢な時間だったなあとしみじみ思う。

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開演時間ぴったりに始まる彼らのライブは、いつも炎や水を大量に放出させる演出が特徴的だった。このカウントダウンライブでは、いつもより特別なくらい炎や水がお祭りのように溢れ出ていて、客席にいる私を含めた観客の人々は、大晦日なのに炎の暑さを感じたり、水の冷たさを浴びたり、と大忙しだった。これこそ現実から離れて、夢を見させてくれる「推し活」なのだろう。

そんな感情のジェットコースターに乗っているかのようなカウントダウンライブで、いよいよメインの年越しとなったとき、推しの声が身体全体に響き渡っていった。そのとき、私は初めて眠れない夜の存在を知ったし、眠ない夜の世界に一歩大きく足を踏み入れたように思えた。好きな人が眼の前で歌って踊って、汗だくになりながら「もうすぐ今年終わるよー、準備はいいかーいっ!」と息を荒げてファンへ尋ねているから、もう目がぱっちりで、一生分の声を出したし、会場の近隣住民への配慮で本当は飛び跳ねてはいけないけど、「今日だけは、飛ぼう!」と、会場全体が一致団結しているのを見た。もちろん、私も今日だけは許してください、と言ってぴょんぴょん飛び跳ねてみたのだ。

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夜は静かに眠って、また新しい朝がやってくる。そんな何気ないけれど平和な毎日に、初めて「眠れない夜」が刻まれたとき、私は日常を忘れて、眠らずに夢見心地のまま年を越したのだった。