人生で6回の引越しをしてきた私だが、もう一度住むならと聞かれたら、間違いなく神戸と答える。
すいもあまいも噛み締めた、思い出に溢れた街だ。

田舎育ちの私は、幼い頃からなんとなく都会に憧れがあった。
とはいえ、田舎の自然に囲まれ、のんびりした時間が流れるところや、隣近所とのつながりが多いことも大好きで、県外に住むならほどよく田舎でほどよく都会なところがいいなぁ、なんて考えていた。

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親戚の結婚式で神戸を訪れた時、山と海という自然に挟まれているのに、いまどきのおしゃれなお店もたくさんある街並みに胸が高鳴った。
そんな街を綺麗なお姉さんたちが颯爽と歩く姿は、キラキラ輝いて見えた。
この街こそ私の求めていた場所だ!
絶対ここに住む!と心に決めた。

学生時代から移住したかったのだがそれは叶わず、数年越し就職のタイミングでこの街に引越した。
父の運転する車に揺られ数時間、橋を渡って神戸の街並みが見えてきた時のあの高揚感は忘れられない。
大好きなジブリアニメ『魔女の宅急便』のキキも、きっとこんな気持ちだったんだろうなぁ…なんてことを考えていると、新居に到着した。
グーチョキパンの2階ではなかったものの、偶然にも新居の真隣がパン屋さんで、私の興奮はさらに高まった。
こうして憧れの土地での生活は、期待に満ち溢れてスタートしたのだった。

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しかし引越しから半年ほど経った頃、私の心にワクワク感は微塵も残っていなかった。
当時社会人1年目。慣れない仕事と、人の命を背負うことの責任の重さに押しつぶされそうになりながら、ギリギリのラインで耐えていた。
自宅から職場まで歩きながら、看板が落ちてきたり車が突っ込んできたりしたら、仕事行かなくて済むのになぁと思ったこともあった。

休みの日も家にいると、仕事のことばかり考えて気持ちが塞ぎ込んでしまいそうになり、行先も決めず外に出かけた。
当時の家から中心地の三宮まで20分もかからず歩ける距離で、散歩するのにちょうどいいコースだった。
自宅から坂を上がっていけば山、降りていけば海がある。そこから少し歩けば、おしゃれなカフェや雑貨屋さんにも行けてしまう。
自然と都会が入り混じった住みやすい土地だなぁと改めて思った。
同時に、あの時憧れた颯爽と歩く綺麗なお姉さんとは程遠い、疲れ果ててボロボロの自分に嫌気がさした。憧れていたおしゃれな街に見合っていない自分が情けなくて、この街から離れてしまおうかと思ったこともあった。

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そんな矢先、今の主人と出会ったのもこの街だった。
彼とこの場所で出会えたことで、神戸は私にとって憧れの土地というだけでなく、たくさんの思い出に溢れた街となった。
初めて2人で飲みに行ったお店、たこ焼きパーティの買い出しに行ったスーパー、デートで行ったハーブ園…
その後遠距離になってしまったが、この街でできたたくさんの思い出が私を支えてくれ、仕事にもめげずに向き合うことができるようになった。

その後転職を機に、神戸から別の土地に引っ越した。
たった数年しか過ごせなかったが、今でも私にとっては大好きで忘れられない街だ。

願わくば次に訪れる時には、背筋を伸ばして颯爽と歩く、あの街に似合うかっこいい女性になっていたい。