半年に一度の頻度で、眠れない夜がやってくる。それは突然やってくる。

眠れない理由は特に思い浮かばない。いつも通り頭の中で今日あったこと、明日やることを整理しているうちにぐるぐると頭が回りだして、妙に目が冴える。そういう時は大体生理前。なぜか思考は悪いほうに向かいだして、自分では止められなくなって、明日が来るのが急に憂鬱になる。

あと20分目を閉じて、眠れなかったら起きてしまおうと心に決めて寝返りを打つ。何度も経験しているからわかる。眠れないときは無理に寝なくていい。たとえ明日の朝、なんで早く寝なかったのだろうと後悔することになっても、今の私を大事にできるのは今の私しかいないのだから。

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やはり眠れない。目を開けると暗闇の中でもかすかに周りのものが見える。瞳孔が暗闇に順応している。人間の体は不思議だな。スマホを見るといつもはもう寝ている時間。寝られないから起きる決断を下した。半年に一度の夜更かし決行である。

まずは温かい飲み物を用意する。紅茶にはちみつを入れたものがいいだろう。本当はお酒がいいけど、お酒を飲むとおやつが食べたくなる性分だ。さすがにこの時間にポテトチップスを食べる勇気はない。

ブランケットを準備してテレビの前に座り、電源をつけて軽くチャンネルを回す。BSがいいだろう。車窓から見える景色を特集したものや、海外の家族の生活に密着したものをぼんやりと見つめる。夜中のスマホは本当に猛毒だ。ただでさえむき出しになった深夜の心。知りたくもない情報、誰かの口論、心をかき乱すものが多すぎる。深夜のテレビ番組は、私のような者のために、こういった無害な番組を放映してくれているのだと思う。

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ぼーっとテレビを見る。子どもの頃は、0時をえて起きているなんてってのほかで、起きていることがばれた日には、お母さんに恐ろしいくらい怒られた。私のことを思って叱ってくれる人は、もう近くにいないんだなと思い、親の愛情を知る。

深夜2時を過ぎると、穏やかな番組も流れなくなってくる。テレビも、朝の情報番組を前に少々眠りにつくのだ。こうなると自分のお気に入りのBlu-rayを再生するしかなくなる。好きな俳優の舞台作品を流したいところだが、今のセンシティブな心に演劇は沁みすぎてしまう。ここは何かのライブ映像がいいだろう。

華やかなステージ、晴れやかな衣装。興奮する観客と対照的に、やたらと落ち着いた会場スタッフ。興奮の渦、その中心にいる私の推しは同い年。本当にかっこいいし、輝いている。輝きすぎて、「この人はここでこんなに輝いているのに、私は何をしているんだろう」と、意味もなく比べてしまったりもする。同じ年に生まれただけで、同じものを目指しているわけではない。わかってはいるけれど、やっぱり比べてしまうのは、真夜中だからということにしておこう。

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それにしても、推し、やはり健康にいい。見ているだけで元気がもらえる。この人もここまでくるのに順風満帆とはいかなかったはずだ。私はこの人が好きだと大きな声で言えるように、自信を持った自分でいられるようになりたい。あんなにマイナスだった心に、急にポジティブが湧いてきた。

朝4時。朝と深夜の境界はわからない。ただ、外が白んできた。眠くはないけれど、また布団にもぐりこんでみる。さっきよりは眠れそうだ。こういう時は意外と寝坊しない。危険なのは前の日ぐっすり眠れた時だ。

私の眠れない夜に理由はない。私はその突然訪れる眠れない夜を、少し楽しみにしている。
この夜が自分を一番大切にできている実感が湧くからだ。