前回の「眠れない夜の理由」では、修学旅行が楽しみすぎて寝れなかったときのエピソードを書いた。あのエッセイを書いているときの私は、昔の思い出が蘇ってとてもワクワクしていた。けれど、今回の「眠れない夜の理由」はそんなに楽しいものではない。

単刀直入に言うと、私は不眠になってしまった。
「夜中まで起きられない!」と言っていたこの私が。「オールなんて絶対に無理!!」と言っていたこの私が、まさかの不眠になってしまった。

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私が不眠になった理由は至ってシンプルだ。私はハラスメントを受けたことで鬱状態になってしまった。
他方で、私を人格否定した相手はいつものように仕事をし、何事もなかったかのように過ごしていた。
私がハラスメントの相談をしても周りが味方をしてくれることなかった。完全に孤立無援。みんな私に「変われ」という。
今まで良好な人間関係を築けていた私にとって、突然「あんたはおかしいから、性格を変えなさい」と言われる日が来るなんて考えてもいなかった。横暴な態度を取っていたわけでもないのに、周りの人はハラスメントの人の味方になり、口を揃えて私に「変われ」というだけ。
この環境に一年以上いたせいで、私の感覚は次第に麻痺してしまった。「全て私が悪いのだ」と思い込んでしまったのだ。

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ベッドに入るたびに、「私が悪い」「私がいけない」という呪いが頭いっぱいに広がる。そうすると、眠れなくなるのだ。
寝たいと思っているのに、「寝るな、寝るな」と私が私を責め立てる。
「お前が悪いんだから、寝るんじゃない」という言葉が響き渡る。そうすると、ますます眠れなくなる。悪循環がこのようにしてできあがる。

「明日なんて来なければいいのに」
「またあの人たちと話したらなにか言われるに決まってる」
「みんな私のことが嫌いなんだ」
「生きてるだけなのに、こんなに辛い……」

呪いはどんどん大きくなり、被害妄想が激しくなっていった。

ドン底にいたとき、私はついに病院に行くことにした。「自分がいけないんだ」と思い込んでしまっている私を治療しなければならないと思ったからだ。
思い込みは恐ろしい。何でもかんでもマイナスに捉えたがるし、人々が皆敵に見える。皮膚のように引っ付いて離れないし、じわじわと身体の中を侵食していく。
このまま、この得体の知れない虚無に呑まれていてはいけない。そう思った私は医療機関を受診し、「鬱状態」の診断を受けた。そして、生まれてはじめて睡眠導入剤をもらった。

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「こんなちっぽけな薬で私の不眠が治るのだろうか」

薬を受け取ったときは半信半疑だったが就寝前に飲むと、自分への呪いをかける前に眠っていた。
しかし、眠ると悪夢をよく見る。親しい人が亡くなった夢とか、誰かに追いかけられる夢とか、自分が殺される夢とか。
でも、これで私が「眠れない」ことは無くなった。悪夢を見ようが、私は眠ることができている。しかも、朝起きると目がパッチリしている。ご飯を食べた後は睡魔に襲われるが、眠れなかった頃より全然楽だ。

薬のおかげで自分への呪いをかけることはほとんどなくなったが、薬にばかり依存するのもなんだか怖い。
薬無しで自分への呪いと戦うことができるぐらいの強さを、未来の私は持てるだろうか。