「きちんと座りなさい!女の子なんだから!」

女の子という理由で、礼儀を仕込まれた私。13歳離れた兄とは、親のしつけもなんだか違うことを感じていた。しかし、女子だからというデメリットばかりではなく、いわゆる嫁入り前修行として、お茶やお華のお稽古にも行かせてもらい、日本の伝統を知り、五感で体験できたことは大きな財産になった。

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就職は、男女同じ給与である教師の職を選び、やりがいをもって働くこともできた。ただ、子育てや介護との両立は厳しく、ストレスを感じる日々を重ねた。子育て中の夫の協力は期待以上で感謝の言葉しかないが、時代のうねりの中で、教師という仕事の在り方も価値観が大きく変わっていき、波に何度ものみこまれそうになった。

そんな中出会った言葉が近江商人の「三方よし」。

「売り手よし・買い手よし・地域よし」。ウィンウィンの関係だけでなく、商売をすることで、その地域に貢献していくという考えに、光がぱっと差し込んだ気がした。

クラスの子どもたちにも「自分よし・相手よし・クラスよし」の考えを大切にし、今、クラスで起きている課題や今後のことを話し合って整理し、自分たちの行動を自分で決めるように働きかけてきた。

男性中心の管理職の中で、登用された時も「三方よし」の考えで組織をつくるように心掛けた。「子供よし・先生よし・地域よし」。

「三方よし」の考えは、混沌とした課題をスッキリさせるのに役立った。

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10年後の女の子に「三方よし」の言葉を送りたい。「三方よし」を杖に歩むことで、楽に豊かに生きることができると思う。10年後の女の子のストレス要因は、様々だろう。情報社会はずっと進み、スピード感についていくのに精いっぱいかもしれない。

就職、恋愛など、人生の転換期で選択をする時に、自分のチカラだけではどうしようもないことに出会うだろう。その時、女子だから、社会がこうだからということで自分を卑下したり、行動を停めたりしてほしくない。自分もよくて、相手もよいという選択をしてほしい。自分さえよければ、相手がどうなってもかまわない自己中とか、自分だけがまんするという被害者にはなってほしくない。さらに、視野を広げて周りの社会にとってより良い行動を選択してほしい。

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温暖化の問題や経済活性化など、現代的課題は10年後の未来も続いていると思う。

AかBかを選択する際に、Cの案も考えてほしい。その際、自分だけでなくパートナーやチームでの対話が役に立つ。自分とは違う意見に触れることで、考えが広がったり深まったりする。

もっと身近な職場や家族でのごちゃごちゃも、その渦中にのみこまれそうになった時、「三方よし」の考えで整理し、自分の行動を決めると、誰かのせいや社会のせいにせずに、たくましく生きていけるような気がする。

近江商人は今から400年以上前に活躍した人たちだが、その考えは今日の多くの有名会社の社是にも使われ、SDGsの方向性にもつながっている。流行というより不易に近い考えともいえる。だからこそ、10年後のきらきら輝く女の子に贈りたい言葉だ。 

もちろん、私自身も「原始、太陽であった」女性として、一人の人間として「三方よし」で、10年後もきらきら輝き、自分の花を咲かせ続けていきたい。