大学生になり、いくつかのサークルに入った。入学前から絶対に入ると決めていたアカペラサークルにも入った。人数も多く、色々な人がいた。もちろん皆、音楽や歌が好きな人の集まり。人見知りで緊張しいの私は、上手くやっていけるかどうか、馴染めるかどうか不安だったけれど、それより何より歌いたくて、アカペラをやりたい気持ちが強かった。

実際にサークルに慣れるまでに時間はかかったけれど、先輩たちに教わりながら、新入生として挑む初めてのライブに向けての練習では、徐々に一体感が生まれていく楽しさがあった。初めてのバンドグループは、自分たちがやりたいパートを選んで、同じパートの中でそれぞれ歌いたい曲を選び、最終的には各パートの同じ曲を選んだ人同士でグループが出来るという流れだった。そして新入生としてのライブが終わると、各々そのグループを続けるなり、好きな人と新しいバンドを組むなどした。

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年に数回ある学内ライブの選考会直前や本番前になると、バンドを掛け持ちする人も多かったため、どのグループも日中の練習時間だけでは足りなくなり、バイト終わりの夜、夜中に大学の校内に集合して練習することも多かった。眠い目を擦りながら、各々のパートをすり合わせた。

アカペラサークルということもあり、カラオケが好きな人も多く、練習終わりにご飯や飲み会に行って、最後にカラオケに行くという流れが定番だった。

好きな声、好きな曲、バンドメンバーに包まれた空間。お酒を飲んだあとの絶好調とは言えない掠れた声を響かせて、時々、大きなあくびも織り交ぜて、眠気に襲われる。明日も、授業や練習があるのに、見ないふりをして。大丈夫かな、起きれるかな、との心配の声は一旦頭の片隅に追いやった。ふわふわとした時間、不思議な感覚。眠気も体力も限界を迎えているのに、ここから離れたくない。ずっとこの空間にいたいという感覚。

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終わりを告げる部屋の電話が部屋に鳴り響いて、現実に引き戻される。流石に帰って寝るか〜なんて言いながら。

空はうっすら明るくなっていた。こんな時間まで、起きちゃったよ、朝帰りだねなんて話しながら、水分不足で体に筋肉痛のような鈍い痛みを感じながら自転車を押してゆっくり歩く。化粧直しなんてしていない、ドロドロの顔でぼんやり友人と話しながら、ひとり、またひとりと別れを告げて、「また明日ね、あ、もう今日か。とりあえず、おやすみ〜」と手を振った。

とりあえず家に着くと、トイレと歯磨きだけして、遮光性のあまり無い安物のカーテンを閉めて、外着のままベッドに倒れ込んだ。たった数時間後の授業や練習に遅れないように、アラームをかけて。あと2時間も寝れないじゃんと後悔の念にかられて、お酒も入っているため、眠りも浅く、仮眠程度。そして、案の定遅刻したり、授業を欠席することもたまにあった。まあ、もちろん良い行いではないけれど、大学生してるって感じでそれはそれで楽しかったり。

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決まった予定はあるけれど、時間に制限されずに自由に動ける。ちょっと無茶な予定を直前に詰め込んだり。社会人になった今では出来ないけれど。きっとこの先も、あの朝方のなんとも言えない時間を忘れることは無いだろう。もう二度と体感できないかもしれない。若さゆえ、自由だからこそ。 やっぱり好きなことが同じメンバーと過ごす、誰にも何にも縛られない時間、夜から空が明るくなるまでの時間を、まるでブラックコーヒーにミルク注ぎ、混ざりあっていくような、あの自由が心地よかった。自分の時間を生きているという感じがして。