誰にでも好きな街はあるだろう。
私は「あの街が好きな理由」というテーマを見て、いくつかの街を思い出した。
今いる湘南、他に下北沢、高円寺、和歌山県太地町。どこも思い出や出会いが詰まっている。
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和歌山県太地町の話をしようと思う。
そこは祖母の育った街であり、曾祖父母と祖母のお兄ちゃんが眠っている。
コロナ前、私が大学1年生の時にお盆の時期、祖母と2人で帰省した。
新幹線を乗り継いで、約8時間かけて向かった。向かっている最中に祖母がしてくれた、祖母の学生時代の話や役所で働いていた話があって、必要最低限のものはあるものだと思っていた。しかし、そこは当時の自分の想像以上に田舎だった。最初はお家だらけ、人の少なさやお店、自販機のなさに驚いたが、隣の祖母が何年振りであるにも関わらず、スタスタと歩いていて、私はなんだか心が落ち着いた。
午前中に出発したにも関わらず、太地町に到着したのは18:00前後であった。到着した日は祖母の従姉妹のお家に行き、ご飯を食べホテルに泊まった。
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翌日、午前中から動き出し、またお家によってから、お墓参りに行った。その道中に祖母はえらくいろんな人に声をかけられては話し込んだり、挨拶をしていた。そんなに友達が多いのかと思い、祖母に「友達、多いなあ」と言うと、「わし、知らんねん。向こうが知ってるから話しとる」と返ってきた。頭の中がはてなマークでいっぱいになった。
お墓参り後、他の従姉妹が民泊をしているからと、そこへお昼ご飯を食べに行った。すると、そこで働いている50代くらいのおばさんが「あんたのおばあちゃんはミス太地町なんやで。この町では有名人さんや」と教えてくれた。私はそれを聞いて、納得した。どうやら、祖母は太地町でも高嶺の花な存在らしく、祖父はラッキーボーイだったらしい。
民泊を後にしてからも、話しかけてくる人数は多く、祖母は嫌な顔せず淡々と話していた。私は隣でずっと祖母を見て、「孫です」と挨拶していた。ある時、祖母が話している人にいきなりおでこを叩かれた。なにが起きたかと思ったら、蚊を仕留めたようで。初対面の人にいきなり叩かれることなんて普段ないので、驚いた。それと裏腹に、なんて面白くて、ある意味親切で、あたたかい町なんだろうかと思った。
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祖母の従姉妹のお家は、祖母の親戚ばかりで、どこも鍵をかけておらず、大きい声で挨拶しているか、いないかを確認するのが当たり前のようで、祖母はどこのお家に伺うにしても「邪魔すんで~」と声をかけていた。だいたいの親戚たちが、ニコニコして出てくる。「ちょっとだけな」と言いながら1時間はいて、明日の予定だとか、いつ帰ってしまうのか話し込む。終わって、ホテルとかに戻っても、祖母はちょっと出てくるわと行ってしまったり、逆に「あんた、ここ行っとき」と行かされることもあったが、のびのび過ごしている祖母を見ていて嬉しかったし、私自身も1人で祖母の親戚と行動しているのが楽しく、面白かった。
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数年後も祖母と2人で行ったり、アメリカの親戚や当時小学生と中学生の従姉妹を連れて行ったりを繰り返していた。太地町の人たちも老いているはずなのに、むしろ元気になっているんじゃないかと疑うくらい、変わらず元気で、みんな覚えていてくれたことが、なにより嬉しかった。
毎回行く度に思うことは、空気がおいしくて、昼間は青い空が、夜は星空が広がっていてとても綺麗なのだ。夏はとても暑いが、それがまたより良い感覚にしてくれる。
私が太地町を好きな理由だ。