長年の私の夢第1位は『アイスランドに行くこと』だった。
気まぐれに更新する『やりたいことリスト100』の不動の1番だ。
今年、そんな夢をついに叶えた。

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初めての1人海外旅行だった。
準備は2ヶ月以上も前から、着々と、粛々と進めた。

飛行機・ゲストハウス・ツアーの予約、行きたい場所・食べたいもののリストアップ、英語のリスニング練習。
何もかもちゃんと準備できたはずなのに、何もかも準備が足りないと不安で、前日はなかなか眠れなかった。

そして迎えた当日。
トランジットのために爆走し、計13時間にも及ぶフライトで腰を痛め、緊張ではち切れそうな心臓を抱えたまま、私は彼の地を踏んだ。

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5月だった。
空港の外に出た瞬間、冷たく、乾いた風が肌に触れた。太陽が近かった。空気が澄んでいた。
トートバックを抱え直す。キャリーケースを強く握る。1つ大きな深呼吸をしてから、私はバス停に向かって歩き出した。
マスクをつけていて本当に良かったと思う。緩む口元を抑えられなかったから。

旅の1番の目的だったのは、ブルーラグーンだ。
世界最大の露天風呂で、火と氷の国であるアイスランドの名所として知られている。
薄い水色をした湯、遮るものなく広がる空、地熱の煙。
初めてその写真を見た瞬間、私の夢に『アイスランドに行くこと』が加わったのだ。

水着を着て、更衣室から外へ。目の前に、水色が写真よりも想像よりも広がっていた。
硫黄の匂いが鼻をつく。空との境が先の方に滲んでいる。たくさんの人が温泉の中でビールを飲んだり、ぷかぷか浮いたり、思い思いの方法で楽しんでいた。

冷たい風に身を震わせながら足先からゆっくりと浸かっていく。少しぬるい。
とりあえず一周、と動き出す。人が作る波の流れをかき分けながらベストポジションを探した。普段飲まないクランベリーカクテルを飲んだり、クレイマスクで覆われた自分の顔を見て笑ったり、2時間の滞在を飽きることなく楽しんだ。

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5日間の滞在はあっという間に過ぎていく。
市街地をぐるりと周ってみたり、ツアーに参加したりした。アイスランドには、真っ青な海があり、雪を被った山があり、手が届きそうなほど近くに空があった。

夏に入ったばかりだったらしい。空気は冷たく澄んでいるのに、日差しはキツく、眩しい。そして、夜が長かった。なかなか夜にならないと言った方が正確かもしれない。

22時。
私の部屋の窓からは市街地で有名な教会が見えていた。

最終日。群青色の空の下、淡くライトアップされた教会を目に焼き付けて眠った。

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つい最近、旅行の写真を整理した。
撮り慣れない写真は写りが悪かったけれど、思い出を振り返ることに支障はない。このときは道に迷って歩き回った、あのときは集合時間が分からず苦労した、なんて1人で振り返って笑った。

長年憧れた地を訪れて、私自身に劇的な変化が訪れたかと思えばそうでもない。相変わらずぐだぐだと仕事に行き、友達と不満を垂れ流しながら生きている。それでも、「まぁなんとかなるか」という楽観思考ができるようになった。これをもしかしたら『自信』と言うのかもしれない。

そして、次なる『憧れ』も生まれた。
次はパリに行きたい。アパルトマンを借りて生活してみたい。英語ももっと使えるようになりたい。現地の言葉も覚えたい。

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『憧れ』には果てがないのだと思う。『憧れ』の先にはまた『憧れ』がある。それはきっと焦がれてやまないものなのだ。
少し大きくなった自信を抱えながら、私は今日も次の『憧れ』を目指して進んでいく。