もうすぐ世の中はハロウィンを迎えようとしている。駅にはかぼちゃの形のオブジェが飾られ、街ゆく人々からは「○○のコスプレしようかな」や「渋ハロ行く?」なんて声が聞こえてくる。
そんな楽しいはずの10月の賑わいの中、私は初めて彼氏と大喧嘩をした。
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きっかけはすごく些細なことだった。インスタのおすすめユーザー欄に、彼氏の見知らぬアカウントが出てきたのである。
アイコンがインスタのグリッターのエフェクトをかけたツーショットで、以前にそのエフェクトで撮ったことがあったので「私かな?」と思った。
よく見たら、全く知らんロングヘアの女だった。
お風呂上がりにそんな状況になり、不機嫌顔でブスッとしていたところ私の機嫌を伺ってきた彼氏を問い詰めた。
「え、これってどういうこと?」と聞くと、すごく焦ったような顔をした。浮気だと思ったが元カノだった。
元カノと交際していた時のアカウントを消し忘れていたのだ。そんな些細なことだったのに私の沸点が低すぎて、「今使ってる箸も歯ブラシ置きもスリッパも、全部元カノが来た時用だよね?最初からおかしいと思ってたんだよ、お母さんの分とか言ってたけどそんなわけないよね」とブチギレをかました。
するとすごく申し訳なさそうに謝ってきたが、私の怒りは頂点に達し、衝動的になって別れたいとまで言った。
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でも私も問い詰められた。
以前好きなバンドメンバーにDMを送っていたのを見られていたのである。いつ覗き見られたのかは定かではないが、本当に意表をつかれた。それは浮気なんじゃないかとも言われた。自分のアカウント消し忘れと天秤にかけようとしていたが、既読にすらなっていないし、一方的なファン目線の思いを送っていただけである。でもそんな私自身もみっともなかったと反省した。
夜中になっても頭に血が上ったままで、寒空の中ベランダに出て月を眺めていた。イヤホンで懲りもせずそのバンドの曲を聴いていたら彼氏がやってきて、結局色々話し合って和解した。
「現在と未来は私のことしか見ない」と目を見て言われたので渋々許した。私も一応謝った。この一連のやり取りをドローンで空撮したら安い映画みたいで面白かったかな。
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こんな感情同士の真正面からのぶつかり合いは同性の友達ともしたことがなかった。私にとって初めての経験だ。人と衝突するのを避けて生きてきたので、今まで嫌だと思ったらぶつかる前にすぐブロックして逃げていたけれど、今回は大好きな人だしそうもいかない。
ヨシヨシされた流れで結婚話も出て、数年以内にこの人の名字になって生きていくんだと思ったら26年間冠してきた名字がなんだか惜しく思えた。婿にとるということは考えていないため、私が嫁に入って相手の名字を名乗ることになる。別になんの執着も未練もないし、これといった愛着もないと思っていたがいざ直面すると全然心持ちは違う。
私の名字は別段珍しくもないし、相手の名字がどうだってこともない。それなのに、なんで心臓のあたりがキュッと苦しくなるんだろう。でも人はみんな変化に怯えるものなのかもしれない。
急に祖父や祖母の顔が脳裏に浮かんできて、実際そんなことはないのにもう家族ではなくなってしまうような、よそ者のような気分になった。
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私は簡単にバツを付けたくはないから、結婚したら一生耐え凌いでいくつもりでいる。だから今回のようなことが今後あったとしても、グッと奥歯を噛み締めて生きるんだと覚悟を決めた。今の自由な時代にこの思想は古風なのだろうか。
これを書いている今は私は実家に帰省し、少し距離を置く期間を設けている。と言ってもたったの2週間だ。
この期間を乗り越え、ハロウィンの辺りにはきっとより愛が深まっているだろうと信じている。