結婚後の自分の苗字が嫌いだ。ほとんど憎んでいると言ってもいい。

まず、なんだか間抜けな響きがする。それに、珍しい苗字だから、飲み会の予約をする時に一度で聞き取ってもらえない。今まで何度もうんざりさせられてきた。

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どれくらい嫌いかと言うと、何度か関わることになりそうな人に苗字で呼ばれたら、すぐに「あやさん(本名の名前)と呼んでくれますか?」とお願いするし、Facebookに偽名で登録していたくらいだ。結婚してしばらく経って「やっぱり気に入らない。これは無理だ」と思ってFacebookの名前を変更したから、夫と共通の知人は驚いたらしい。「旧姓でも結婚後の姓でもない、全く新しい苗字になっている。これは別の男と結婚したのか?」と。

たしかに自分の好きな男と結婚した。でも彼の苗字は好きになれなかった。だから、苗字も好きなものと結婚しようと思って、全く別の苗字を作り上げた。

でも、後日、友人から「アダルト系の作家さんと同姓同名になってしまい、紛らわしい」と苦情がきた。また、本名でないとFacebookで見つけてもらえない。仕事でメッセンジャーを使うときも不都合がでる。だから仕方なく、旧姓と結婚後の姓をダブルで表示することで、妥協している。

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ちなみにライター名も、本名ではない。

自分の苗字が嫌いだからというのもあるが、ある女性ライターが「女性は結婚した後の苗字で、ライターを名乗らない方がいい。離婚すると名前が変わって、仕事に支障が出るから」と言っていて、なるほどなと思ったからだ。現に彼女は何度か結婚をして、その度にライター名を変えたそうだ。自筆記事を実績として開示する時に、伝わりにくかったのだという。

だから「自分の苗字が好きでたまらない!」という女の子に出会うと、羨ましくなる。旧姓に誇りを持っている子もいれば、結婚後の苗字にしっくりきている子もいた。だいたいInstagramで誇らしげに書いているから、すぐに分かる。

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私はと言えば、結婚して9年経った今でも、未だにしっくり来ていない。サイズの合わない服を、無理やり着させられているようだ。だから本名ではなくて「ライター名」が使えるこの仕事を選んで良かったな、と思う。今はほとんど、本当の苗字で呼ばれることはないから。

もし「自分の苗字が嫌でたまらない」という人がいたら、偽名を使ってみるのはどうだろうか。あだ名でもいい。どちらも難しい時は「実は、自分の苗字が好きじゃないんです。○○と呼んでくれますか?」と言うと、だいたいびっくりされるが、意外と快く受け入れてもらえる。

「何かフィットしないな」と思いながら続けていると、どこかで歪みが出る。「小さなことだし、私が我慢すればいいか」と思って甘く見ていると、ひどいことになってしまう(今回のケース以外でも、たくさん経験してきた…)。チューニングしながら生きていこう。苗字や他のものや、あなたを縛ってくるものが何であれ、あなただけの人生なのだから。