何か決意をするのはなぜか決まって秋。

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数年前の秋、わたしは「自分のやりたいことってなんだろう」と徹底的に向き合った。
学生時代、就活中にあれだけ自己分析をしたのに、大人になってからも自己分析をするなんて思わなかったけれど。

当時残業でほぼ毎日遅い時間まで働き、最寄り駅に到着しては、泣きながら夜道を帰るのが私の日課だった。
街灯が少なく暗かったせいか、どれだけ泣いてもすれ違う通行人にバレずに思いっきり泣けるのが今思えば良かったところ。

そんな毎日を過ごしていたら、日に日に精神と身体がすり減っていき、少し肌寒くなってきた秋の季節に余計寂しさを感じ、すぐにでも会社を辞めたい。そう思うようになった。

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すがる思いで転職アドバイザーとの面談を休日に予約した。
後に、この行動がわたしの人生を変えるきっかけになる。

転職アドバイザーとの面談会場へ到着するや否や、わたしの口から出たのは精一杯のSOS。

「今の仕事が辛いです。今の会社以外ならどこでもいいからすぐに転職させてください……」

大の大人が涙を流すなんて。と恥ずかしさから泣くのを耐えていたつもりだったが、途中から全てどうでも良くなり、想いが溢れると同時に涙が止まらなかった。

もう限界を迎えていたのかもしれない。

少し間があり、女性アドバイザーからの言葉を待った。
彼女から出た言葉は、わたしにとって予想外の言葉だった。

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「業界業種を選ばなければ、簡単に転職はできるかもしれない」
「……」
「だけど、どこでもいい。と投げやりな理由で転職したら、次の職場でもまた不満が出てきて、またすぐ転職することになりますよ。同じことの繰り返しです」
「……」
「本当にやりたいことは何か考えた方が良いですよ」

悲しくて涙が溢れた。

なぜ、こんなに辛いのに、この人はこんなに厳しいことを言うのか。と。

わたしの辛さなんて他人は分かってくれない。

最初はそう思った。

だけど、今思えば、悲しくて泣いたというよりは、本質的なところを突かれたのが悔しかったのかもしれない。

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その日は放心状態で帰宅したわたしだったが、何か行動しないとこのまま辛い状態が続いてしまう。と日に日に感じるようになった。
それだけは嫌。と何か踏ん切りがついたのか、あの時の女性アドバイザーの言葉を思い返し自問自答を繰り返した。

「自分のやりたいことって何?」
「そもそも自分ができることって何?」
「自分でできることがないのなら、自分で自分の価値を作り出せばいいんじゃない?」
「自分の価値を作り出すには、起業した方がいい?」

その時の自分なりに自問自答を繰り返し、自己分析を進めた結果、一つの答えとして「起業」に辿り着くこととなる。

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ここからの行動は早かった。

起業の仕方が分からなかったわたしは、とにかく行動した。
SNSを活用し、自分の興味のある分野の会社を立ち上げている人に連絡をしてみたりした。幸運なことに会ってくれる人もいた。

起業している人に共通していたのはみんなワクワクして楽しんでいること。

「自分が本当にやりたいと思えること、ワクワクすることは何?」

この答えを探すために、今度は自己分析を徹底した。
できることじゃなくて、やりたいこと。

できることに絞って無意識に考えていたわたしは、自分で自分の可能性を狭めていたことに気付く。

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それから本気で自分のやりたいことを書き出し、一歩踏み出す決意をした。
後に会社を辞めて、個人事業主として自分のやりたいことで稼ぐことになる。

そんなきっかけをくれた、わたしにとって思い出深い秋だった。