「相手から見えないのに」そんなもの百も承知。
「チケットってそんな高いんだ」見せてもらってるものを考えたら安いくらいだよ。
心無い言葉をかけられることもあるけど、それでも私は推しを見にいく。

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推しのライブというのは、当日の出来事だけを指すのではない。

まずはライブの発表。
「明日お知らせがあるよ~」と匂わせてくれる運営もあるが、大抵は突然「ライブ開催決定!!!!!!」と告知される。

ライブだ!やったー!と喜ぶのもつかの間、チケットが当たるかどうか不安になって、考えても意味がないのにどこを申し込めばいいかを悩みまくる。
大安に申し込みをしたり、近所の神社に神頼みをしにいく。信じる者は救われると信じたい。

そしてチケットの当落日。当落確認時刻が明示されている場合も、当落日しか明かされていない場合も、どちらにせよ何も手につかない。
「当落なんて気にしてないですよ~」って顔をすることで、当選を引き寄せようと目論んでいることもある。無駄なあがき、されどあがき。

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そして無事に当選!小躍りしながら一通り浮かれ終わったら、次は身支度の算段を付ける必要がある。

何を着ていこうかな~気温や天候で変わる~頼むから雨降るな、そしてあんまり暑いのも寒いのもやめてくれ。また神頼み。
よし、こういう系統の服を着るならメイクは大人っぽく仕上げたいな。YouTubeで勉強しないと。

メイクノリをよくするために、いつもはしないちょっと高めの、効果の高いパックやスキンケアしようかな。
個人として認識されることがないのはわかってるし、認識されたくはない。
ただ、推しの視界にちらっとでも入ってしまう恐れがあるなら、史上最高に美しい私でありたい!
……楽しい。本当に楽しい。もう一度ここで浮かれちゃう。

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そして迎えたライブ前日。
どうしよう。楽しみだけど緊張する……もはや行きたくないまである……。
とりあえず荷物の準備をしよう。ブルーベリーのサプリを入れて、ペンライトの電池を入れて、うちわがはがれてないかを確認。
会場への行き方を調べて、この時間に出れたらいけるな。よし。
ここまでやって、うん、やっぱり行きたくないかも!となるのは、本当に意味が分からない。

ライブに行く日の朝は会社に行く日よりも早く目が覚める。
普段なら10分もかからないメイクも1時間くらいかけて丁寧にする。
緊張しすぎて、逆方向の電車に乗ったりする。もう本当に普段の自分と違いすぎる。

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ドタバタしながら到着した会場。
客席に入ってから見える煌びやかなステージのセット。この景色を見るたびに私は泣きそうになる。
慣れないことをして、自分が自分じゃないみたいな思いをしてでも、見る価値がある。

席に着いて、喉を潤しついでにブルーベリーサプリを飲む。推しをクリアに見るための最後の悪あがき。
双眼鏡を調節する。うちわとペンライトをカバンから取り出す。
始まったら終わってしまう寂しさとこれから見られるきらめくステージに胸を躍らせる。

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推しがいなければ来られなかった場所。推しがいなければ見られなかった景色。
この感動が忘れられなくて、今日も私はオタクをしている。