AIの先駆けとも言える翻訳ツール。10年前、すでにネット上に無料の翻訳ツールが存在していた。私の親戚も翻訳ツールの開発会社に勤めていた。

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しかし、その精度はひどいものだった。英語が苦手な私でも、その酷い翻訳から、ツールを利用していることは一目で判断できた。だから宿題とかで使うことはなかった。もちろん英語の先生もすぐにわかるから使わないでね、と指導していた。言われるまでもない。

しかし、昨今の技術進展は目覚ましいものがある。翻訳ツールの精度はみるみるうちに向上し、全く違和感のない文章を生み出せるようになった。これには、技術だけでなく、言語学の発展もあるのだろう。ビッグデータの利用方法もわかってきたのも一因と言える。

私どころか英語が得意な子でさえ、人が書いたものか、機械によるものか最近はわからなくなってきた。ツール使ったよ、と打ち明けると、驚かれることもしばしばだ。ついには、ツールは専門用語さえも理解するようになり、論文等も正確に翻訳してくれるようになった。ツールを使って論文を書いたこともあるし、読んだこともある。

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AIは無料で誰でも手軽に使えるようになった。色々と試すうちに面白くなってきて、AIを利用して小説を書いてみたことがある。確かにAIが書く小説は、私が書くものよりずっと、明快でわかりやすく、面白い話になる。もちろん文法的に誤りもない。

アイデアが湧かない時は色々と提案もしてくれる。ただ、私の小説のアイデアをAIがいまだ指し示すことはないため、まだまだ人間にも活躍の余地はあると思う。しかし、今後追い抜かされ、人間には思いもつかない面白い小説を書かれることもあるだろう。心理学を駆使した絶対に流行る小説なんていうのもできるかもしれない。書店で手に取る小説が、人が書いたものか判断できる自信は私にはない。

AIは業務効率を幾分か早めてくれる。そして、そのAIの良さに気がつくには、知能が必要になる。ここでいう知能とは、AIが正しい英語を使っているとわかる知能、AIが画期的な提案をしてくれているとわかる知能だ。色んな人が言うように、AIの誕生は、格差を広げることにもつながるだろう。

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ここまで考えると、他の人と同じ考えにたどり着く。それは人間とはなんなのか、ということだ。AIが小説を書いたり、絵を描いたりという創作ができてしまうと、人の頭脳とはなんになるのだろうか。AIが将棋の正しい一手を指し示すなら、人対人の将棋に求められているのは何か。皆、すでに思っていることだろう。私も最近よく考えるようになった。

哲学的だな、と思って笑えてくる。かつて、ソクラテスの時代に哲学者が花開いたように、時代は一周して、世の中は再び哲学を必要とするようになるのではないだろうか。

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昔、それこそ10年前、哲学専門の先生に、哲学と工学の融合研究があると聞いたことがある。哲学の考えを生かして、人の考え方を学び、AIに生かすというのだ。もはや人からロボットを作り出しているのか、ロボットが人(の生きる意味)を作り出すのか、よくわからなくなる。

AI時代の新しい哲学。そんなのを提唱できたら、哲学史の一ページを飾れるかもしれないな。不安も大きい一方で、新しい技術のある世界は楽しい。