愛に飢えていた。付き合った彼氏からは、毎回「重い」と振られる。なぜ私は愛しているのに、愛してくれないのか。愛が重いなんて、ひどい。何度も何度も、涙を流した。誰かに重いくらいに愛されたいと、心から願った。

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そんな青春を過ごした私も、もう29歳。私には10ヶ月の息子がいる。

夫とは婚活で知り合った。同棲するまでは週1会えるかどうかの遠距離だったけど、こまめに連絡してくれて、さみしい気持ちにはならなかった。はじめて、包みこまれるような愛を知った。愛し、愛されている感覚に、心が満たされた。

子どもは、ずっと欲しいと思っていた。昔から、母の無償の愛に漠然とした憧れがあった。お金を稼いで、そのお金は自分のために消えて。自分のためだけに生きているのが、なんだか情けなくて。無償の愛を注げるような相手のために生きたいと思っていた。その筆頭は、子ども。子どもを産んだら、生きがいができると思っていた。

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子育ては想像以上に辛かった。

生まれたばかりは笑顔はほとんどなく、泣いてばかりで、夜は3時間おきにミルク。寝かしつけも考えると、2時間も連続で眠れない。抱っこで腱鞘炎になったし、帝王切開の傷が痛くて、起き上がるのすら辛い。だけど、目の前には私なしには生きられぬ赤ちゃん。その責任感の重さに、押しつぶされそうになった。子育ては、無償の愛なんて温かくてやさしいものではなく、殺してはならぬという義務だと知った。

だが私は、とても恵まれていた。

2ヶ月間里帰りして、夜は8時間連続で眠れる日もあった。夫との暮らしに戻った後も、夫が1ヶ月育休。炊事も掃除もしてくれるし、深夜のミルクを担当してくれて、私は実家以上に休むことができた。

夫の育休が終わった後も、夫は家事を率先してくれて。徐々に夜にまとめて寝てくれるようになり、子どもが昼寝している間は一緒に休み、1時間ほどはフリーランスとして仕事に使うリズムができた。たまに通院のために一時預かりも利用。夫が出張のときは、実家に帰る。ちゃんと周囲を頼れているし、子育ても慣れてきた。

そして何より、我が子は世界一可愛い。多少の苦労なんて、目を瞑れる。むしろ可愛い瞬間にずっと一緒にいられるなんて、幸せなことだ。

辛い。でも皆、乗り越えている。私なんて、すごく恵まれている。だから大丈夫だ。

そう思っていた。

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生後10ヶ月を超えたある日。いつものようにぐずる我が子に昼寝の寝かしつけをしているとき。涙が頬を伝った。無意識だった。

今から思えば、少しずつ、積もり積もっていたのだと思う。

一時預かりのたびに風邪になる息子。もれなく私もうつり、子ども以上にこじらせていた。この3ヶ月、体調がよかった日は片手で数えられるほどしかない。直近は副鼻腔炎になり、鼻水と咳、頭痛がずっと続いていた。次に、成長。はいはいにつかまり立ちにいたずらに、目を離せない瞬間が増えた。一人遊びをしているときに仕事をしようなんて、甘かった。

そして、人見知り。家ではトイレに行くだけで泣かれて。せっかく支援センターに連れて行っても、私にべったり。降ろせば怒って泣き出すから、リフレッシュにもならない。実家に帰っても、同様だった。

ママが大好き。それは、とてつもなく嬉しいことだ。これまでやってきた子育てが間違っていなかったから、ママを信頼してくれるから、ママがいないと泣く。これを、しんどいなんて、贅沢な悩みだ。いつか離れていくのだから。そう自分に言い聞かせた。

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そうしていくうちも、膨らんでいく愛。その大きすぎる愛は、凶器になった。愛が苦しめる材料になることを、私は知った。

だが私は、知識もあるし、行動力もあった。そして、支えてくれる人たちもいた。

一度、適応障害を経験していたし、産後うつについても知っていたから、これがうつの兆候だとすぐに気づいた。仕事中の夫にSOSを出して、半休を取ってもらった。子どもの前で泣くつもりはなかったけど、泣いてすべてを吐き出した。それをやさしく、受け止めてくれた。

母も頼った。支援センターにも相談に乗ってもらった。一時預かりの回数も増やした。検診でも心の悩みを打ち明けた。みんなみんな、温かく、やさしくて。心の重荷は軽くなった。

でも、地獄が終わらないのも事実。だって解決したわけじゃないのだから。家族でいる時間が一番長い。本当は、夫の時間が何よりもが不可欠なのだ。

夫は、ずっと子どもといたいという。見逃している時間が惜しいからと。だが現実はそうもいかない。会社員の夫は、3週間育休をとったから、もう育休は取れそうにない。連日の子どもの風邪で、有休もすでに底をついている。欠勤になると評価に響くから、簡単には使えない。

今、私が一番頼りたいのは夫。夫も差し伸べたいと思っている。なのに、できない。それがとても、悲しい。

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育児なんて、予測できないことばかりだ。子どもが突然入院することもあるし、妻が産後うつになることもある。いつだって、休みは急に必要になる。その休みを取りやすくすることが、少子化対策につながるのではなかろうか。こんな社会では、子どもなんて産みたくても産めない。不安すぎる。

私は言いたい。もっとパパの休みを取りやすくしてくれ。本当は育休がいい。でも、復帰後だって子育ては続く。だから有休を増やしてほしい。週1日は休めるくらいに。もしくは短時間勤務でもいい。子育て世代を働かせたいなら、休みやすい制度づくりも不可欠なはずだ。

昔はつべこべいわず、頑張っていた?そんなの知るか。困っているのは今だ。今には今の、地獄がある。そもそもお金を子育て世代からむしり取っているじゃないか。だが、今この瞬間の苦しみに、還元してくれ。困っているのは、今なのだから。