言霊はある。「離婚すればいいのに」が運んできたのは幸せだった
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「離婚すればいいのに」
この言葉が、私が言葉にして良かったことである。はたから見たら、「なんでそんなマイナスな言葉がいい言葉なのか」「そんな言葉では誰も幸せにならないのでは」と思う人が多いであろう。しかし、言葉にしたことで言霊となり、私だけでなく、家族も幸せになった。
私には年の離れた兄がおり、私が小さい時からよく一緒に遊んでくれたり、笑わせてくれたり、面倒を見てくれたりしていた。そんな兄が私は大好きであったが、兄が大学を卒業し社会人になりたての頃、突然家を出ていってしまったのである。母親と言い合う姿を見ていたが、まだ幼かった私は、なぜ兄が突然家を出ていったのか明確な理由が分からないでいた。
少し時間が経ってから兄がなぜ出ていったのか理由を母親に聞くと、俗に言う駆け落ちだという。詳しい話を聞いていくうちに、駆け落ち相手は兄がバイト先で知り合った人であり、私も知っている人であった。
正直私は、相手に対してあまり良い印象を持っておらず、兄が相手に惹かれた理由が分からなかった。今でもその理由が分からないでいるが、恐らく兄が相手に言い寄られたのだろうと考えている。この頃から私は、「離婚すればいいのに」と言うようになっていた。家族に何も言わず黙って勝手に家を出ていった兄に対し絶縁してしまうのではないかと思うほど、両親だけでなく、他の兄妹も怒っていた。
兄に伝えなければならない用件があり、私たち家族が連絡を取ろうとしてもブロックされているのか、繋がらないでいた。その状態が数年続いていたある日、母親に兄から連絡があった。あの頃を振り返り、突然家を出ていったことを反省したのか謝りに行きたいとのことだった。何日かして兄が家に来たが、相当反省しているのか家の敷地に入らなかった。
それから数回兄と会い、出ていってからの生活について知ることができたが、「今幸せ?」と聞きたいほどの生活であった。結婚当初は楽しかったそうだが、子どもが生まれ少し大きくなると、しつけに対しての価値観の違いが表れたり、義母や義理の姉が家庭に対し口出ししてきたりしたそうだ。
中でも私が衝撃を受けた話は、お金についてである。兄は友人らと起業していたため、給料が世の中の平均と比較するとかなり高かった。しかし、お金に関しては奥さんに管理されてしまっていたため、ひと月のお小遣いとして3万円しかもらっていなかったという。
また、ふたりで相談して購入したはずの車も奥さんが勝手に売却してしまい、いくらで売れたのかも報告することなく、そこで得たお金を自分のものにしたりしていたそうだ。話し合っていけばこのようなことが無くなり、また、しつけなどに対しても価値観があっていくだろうと兄は考えていた。
しかし、現実はそんなに甘くなかったようだ。「離婚することになった」と母の下に連絡が入り、母は私に「あなたが望んでいたことが現実になったよ」と兄の離婚を教えてくれた。この時、言葉にしていてよかったと思った。
それから、離婚した兄も含め家族で旅行に行けるようになるまで家族のきずなも戻り、兄は起業した会社をたたむことになったが、その後大手企業に再就職が決まった。結婚してから数年して会った兄の顔に笑顔はなかったが、離婚してから会う兄には笑顔が増え幸せそうだ。今後兄には、今まで以上に幸せになって欲しい。
マイナスなイメージの言葉であっても、その言葉を発したことでマイナスなできごとが起こるとは限らない。このことを兄の経験を通して知ることができた。
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