私は俗にいう美容女子…………ではない。

だがしかし、女子たる者、可愛く美しくあるべきみたいな風潮がまだまだ存在すると思う。
少なくとも、私は感じている。

そりゃ私だって、自分の肌や髪がとぅるんとぅるんになることは嬉しい。
けれど、そこに至るまでの労力がたいそうで面倒に感じるし、一番は美容サロンや美容関係の店舗の独特な敷居の高さと雰囲気を苦手に思っているからだ。

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そんな私ではあるが、ウェディングフォトなるものを撮るにあたり花嫁美容なるものに取り組むべきと、既婚の友人たちに勧められた。
そして、生まれて初めて美容院以外の美容系サロンの門を叩くことになった。

まずは、手元の写真も撮るだろうと思い、ネイルサロンに向かった。
持ちは3週間、取り外しもサロンで行う必要があり、それにも費用がかかると聞き、いろいろ調べた結果、自分で取り外せて、別の日にまた使うことができるネイルチップのオーダーをすることにした。

予約の日が近づき、以前美容師さんがイメージ写真を見せてもらえると、どんな風にしたいのかわかりやすくて助かると言っていた事を思い出した。
「ウエディングネイル」と検索し、気に入ったものをいくつかスクショしておいた。

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来店当日、緊張しつつ店舗へ向かうと、キラキラと美しく長い爪をした年下の可愛らしいネイリストさんが出迎えてくれた。
お手入れなしの、ありのまんま自然体ネイルの私は、どっからどうみてもネイルサロン初心者であることが明らかで、場違い者がやってきたと思われていないか不安な気持ちでいっぱいだった。

隣から聞こえてくる他のネイリストさんと常連らしきお客さんの雑談は慣れたもので、使っているアイシャドウの話が繰り広げられており、次々とデパコスブランドの名が登場していた。もっぱらコスメの購入先は、ドラックストア一択の私の背中はますます小さくなった。

髪を切るための美容院は、自分で自分の髪を切る行為はあまりに難易度が高い手入れだから、多くの人が必要に迫られて訪れる場所だと思う。一方で、爪の手入れは爪切りを使って自分で行うことは容易だし、クオリティを追求しなければ自分でマニキュアを塗ることもできる。それでは満足できない人々が訪れる場所こそがネイルサロンだ。そう思うと、ますます自分がここに来てよかったのか不安に感じてきた。

あぁ、きっと今日の担当してくれる年下の可愛らしいネイリストさんにも、場違いな客だと思われているかもしれないと不安を抱えたまま、私への接客が始まった。

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私はおそるおそる気に入ったネイルのスクショを差し出した。

すると、

「可愛いですね!!素敵」

屈託のない笑顔でいいリアクションをしてくれて、私はひとまずほっとした。その後も、当日きるドレスの色味だとかを伝えながら、こういう色味にアレンジしましょうかなど相談した。親身にどんなネイルにしたいのか聞いてくれ、話しやすい人が担当になって良かったと安心した。

終盤になって、料金の話になった。私がみせたデザインは、装飾が多く、追加料金になるとのことだった。予約時に追加両金がかかる可能性があるなんて書いてあったっけと思いながら、具体的にいくら追加になるか尋ねた。すると、少々お待ちくださいねと私の担当さんは席を立ち、店長らしき人のもとへ相談に向かった。

しばらくすると、こんなやり取りが聞こえてきた。

「それは出来ないでしょ」
「この部分は確認した?」
「それは言わないと」

店長らしき人と一緒に席に戻ってきた。

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そして、追加料金を含め提示された金額は、予約時の金額から1.5倍の金額に跳ね上がっていた。私は、思わず「えっ」と声をあげてしまった。
料金の内訳をきくと、基本料金はただ一色塗るだけの金額で、それに飾りを足したり、色を混ぜたりするごとに追加料金がかかるというものだった。
ネイルサロンの世界では、そんな料金体系が常識なのかもしれないが、初心者の私が知る由もない。予約時に書いておいてほしかったなという所である。

すると、店長らしき人が話し始めた。内容を要約すると、私が示したデザインはそもそも装飾が多いから追加料金がかさんでもしょうがないものだ。そして、使用したい日程までに、このようなデザインのものを仕上げることは店側に相当負荷をかけるものだということ、そもそもウェディング用だともっとシンプルなデザインにするのが一般的だというものだった。

私は、2週間前から来店を予約していて、予約時に使用したい日を伝えていた。
私の確認が甘かったのは認めるが、予約を受けた時点で言って欲しかったなと思った。1か月に一度、サロンに通うようなネイルサロンの常連さんたちからしたら常識なのかもしれないが、私はこの店はもちろん、ネイルサロン自体が初めてだったのだ。分かるわけないだろう。
言い返そうかと思ったが、もうあとは後日完成品を受け取るだけだし、言葉にするのはやめた。

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家に帰ってからもしばらくモヤついた。
それは、想定以上の費用が掛かったからでも、デザインが思ったものより結局シンプルなもにしたからでもない。
店長らしき人の言葉の端々や対応から、「あなたの思うようなのにしたかったらお金も時間もかかって当然なんだけど。それ分かった上で来てよ」という本音が見えてしまったような気がしたからだ。

ネイルサロンの代金は、決して安くない。私も結局、ちょっといいお店のディナーを2回ほど食べれそうな金額を支払った。

これから当分、私がネイルサロンの入口をくぐることはないだろう。
これまで通り、ありのまんまの自然体ネイルで行くことにする。それは、心を削って美しい爪を手に入れるより、ちょっといいお店のディナーに2回行くことを、私は選ぶからだ。