鳥の鳴き声。食器の音。

朝だ。そう思った。今日は何があったっけ?

私は毎朝、その日のことを考えながら起きる。その日、どういうことがあって、何か不安なことはないか。そういう風に予期しておけば、いざというときにやりやすい。
胸の奥に引っかかるものがある。

思い出した。昨日の早紀子の発言だ。

「へえ、あなたもC組なんだ」

馬鹿にした眼差しであいつは言った。少なくとも、私はそう感じた。

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私はバトン部に所属している。バトンと言ってもやるのはチアダンスとかガールズみたいな感じ。部活のイメージはいわゆる“キラキラ系”ってやつだ。バトン部の同期とは部活以外でも結構一緒にいる。クラスで言うといつメンみたいな。自然とそういう感じになる。

だから、新学期にクラス発表がある時、まず自分の名前を見つけたら、そのクラスにいるバトン部はだれなのか、確認する。そこに書かれている名前次第で私の一年が決まると言っても過言ではない。同クラのバトン部は一軍と二軍の間くらいがちょうどいい。

あ、「軍」っていうのは顔面、スタイルの良さとか、コミュ力の高さとかで決まる。正直、私は二軍だ。顔もそんなにかわいくないし、コミュ力も高くない。校則を破ってまで髪を巻いたり化粧したりしたくないし、正直一軍と一緒にいると疲れる。

今年のクラス発表があった時、心底終わったと思った。今年は東京への修学旅行もあって大事な1年だ。クラスには私以外にバトン部が4人いた。これは結構多い方だ。でも、終わったと思った。なぜならば全員一軍だったからだ。しかも、今まで同じクラスになったことがある人はいないし、その4人で仲良くしちゃいそうなメンバーだった。

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夜、インスタのストーリーを見た。C組の人よろしく!と書かれた画面の写真に、桜と鈴美が映っていた。一緒にクラス発表を見たらしい。反応しようか迷ったけど、やめた。どう思われるかわからない。次の朝、教室に入ると4人のうちの1人、桜は出席番号順でたまたま近くの席だった。おはようと一応声を掛けたら、すぐ絡んできた。いいのか悪いのかわからないけど、嬉しかった。このクラスのバトン部の一員として認められたみたいで。

そうしてたら、鈴美と萌香と澪がきた。途中で会って一緒に来たらしい。初日は、上手くいった。次の日も、その次の日も皆仲良くしてくれた。杞憂だったのかと捉え始めた。そんな時、同期10人くらいでクラスの話になった。その途中早紀子が言った。

「C組って顔偏高くない?」

私は、自分は含まれてないと思った。逃げたかった。それか、話題を変えたかった。でも、それに続けて早紀子は言ったのだ。

「あんた、何組だっけ?」

最悪。と思ったが、答えないわけにもいかないのでC組だと答えた。今考えれば、早紀子はB組で隣だし、何回か会ったので知っていたはずだ。そのあと、3秒くらい沈黙があった。
「へえ。あなたもC組なんだ」と言われた。それはまるで私がC組の一員でない、C組のバトン部である資格がないと言っているようだった。その後の会話はあんまり覚えていない。 

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顔偏とかコミュ力で学校生活が決まってしまうなんておかしな話だ。でも、それは現実だ。一軍とかキラキラ度なんて気にするのはほんとはバカバカしいと思う。でも言えない。だってそういったら自分が一軍になれないからでしょと言われてしまうからだ。

今日も学校に行かなくちゃいけない。部活があるから早紀子にも会わないといけない。でも、幸いクラスのバトン部は仲良くしてくれる。どう思っているのかなんてわからないけど、気にしても仕方ない。頑張るか。そう思いながら、上半身を起こした。朝日がカーテンからはみ出ていた。