白雪姫は死にました。私は私の為に、ほんものの世界を生きていく
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鏡よ鏡、なぜ私の瞼はぱっちり二重にならないの?
鏡よ鏡、なぜ私にはあの子みたいに涙袋がないの?
鏡よ鏡、なぜ私はあの子みたいに細い脚じゃないの?
鏡よ鏡、なぜ私は二重顎のデブなの?
鏡よ鏡、なぜ私の髪の毛は太くて癖毛でサラサラにならないの?
鏡よ鏡、なぜ私はあの人にいないみたいに扱われなければいけないの?
14歳の私、二重埋没の手術は緊張したし怖かったよ
14歳の私、涙袋のヒアルロン酸は意外とあっさり終わったよ
14歳の私、あの子より細い脚、細い身体にはなれたけど美味しいご飯は食べられなくなっちゃったよ
14歳の私、風になびくサラサラの髪にはなったけど薬剤があわなくて髪が抜けたりうなじに湿疹がでたりしたよ
14歳の私、あんな人なんかめじゃないくらい沢山の人と付き合ったよ
ぱっちり二重も涙袋も、細い脚も、細い身体もサラサラの髪も、好きな人も全部全部全部手に入れたよ
だけどね、つぶらな目の癖毛のまあるい14歳の女の子を殺したのは、悪い魔法使いでも意地悪な継母でもなくて、 鏡のなかの白雪姫だよ
ぱっちり二重と涙袋に細い脚、サラサラの髪をした白雪姫が殺したんだよ
私が本当になりたかったのは、ありのままの私だったのにね
今日も鏡の向こうに見える白雪姫が、私を殺しに来る。
食べ物を食べると太るぞと白雪姫は言う、ボトックスを打たないとエラがはって顔が大きくなると白雪姫が言う、脂肪吸引しないとブルドッグみたいに頬が垂れ下がると白雪姫が言う。
目頭を、目尻を、シワをーー
うるさい、うるさい
死んでしまったつぶらな目の少女、まあるい14歳のお姫様
あなたは何にだってなれた、あなたはどこにだっていけた。
あなたは優しかった。あなたには未来があった。希望があった。
だからどうかそんな鏡捨ててしまいなさい、自分の持っていないものをまざまざ見せつけて鼻で笑うような悪い鏡、割って捨ててしまえばよかった。
りんごの毒が白雪姫を殺す、鏡の中の白雪姫が注射器を持って殺しに来る、あんなに憧れてたハンサムな王子様はキスしたかっただけ、命を助けてくれやしない。
あなたが生きるべきだったのはちっぽけなおとぎ話なんかじゃない、もっと激しい火のなかのほんとうの道のりを歩むべきだった。
ハンサムな夢の王子様を待つのではなく、どこまでも行ける幻想四次の切符を手に入れればよかった。
白雪姫は死にました。
サラサラの長い髪なんて邪魔だから切ってやる
おいしいもの食べてみちみちに太ってやる
シミやそばかすができるまで太陽の下で思う存分遊びまわろう
海にも山にも行こう
生きてゆこう、14歳の私を抱きしめて
生きてゆこう、死んでしまった白雪姫も抱きしめて
鏡より広い世界を見据えて、荒野を走り回りときに転がりながらも生きてゆこうーー
寝込みをキスするようなくだらない王子様の為に死ぬんじゃなくて自分だけの為に、自分がなりたいものになり、美味しいもの食べて、安心できる布団でぐっすりと眠る為に、生きてゆこう
かくして白雪姫は死んだ。
こうして私は私の為に、おとぎ話のふわふわきらきらお姫様ではなく、ただの23歳の独身女性として生きていくことにした。
さぁ、ほんもののこの世界はどんな激しい風が吹くのだろうか、どんな土砂降りで雨が身体を打つのだろうかーー。
のぞむところである。
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