小さな頃、明日雪が降ると天気予報で聞くと、前の夜はわくわくして眠れなかった。
それぐらい雪が珍しい存在だった。というのも私の地元は年に1回か2回降るかどうかといったところで、積もるなんてことはなかなかない。だから雪予報が出た日も、だいたい綿雪がひらひら舞うだけで、雪合戦や雪だるまを作って遊ぶことは叶わなかった。
ニュースで流れる大雪の様子や、何メートルも雪が積もっているのは、どこか異国の景色のように感じていた。

小さい頃、雪山に遊びに行ったことがある。その時はまだスキーやスノーボードができる年齢ではなく、雪だるまを作っていた。もちろんこれは覚えてはなくビデオや写真で、小さい頃の自分が雪を満喫している様子を見ただけである。
それだけ私にとって雪は身近になかったもので、どこか幻のような憧れのものでもあった。

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大学生の頃、カナダのカルガリーに10月の終わりに旅行した時のことだった。
カナディアン・ロッキーの山々や自然に触れたくて、日本人ガイドが主催しているツアーに申し込んだ。マイクロバスに乗って、山を巡った。木々の中を、動物を探しながらバスで巡るのは楽しかった。天気はずっと重たい雲が立ち込めた曇り空で、山の麓にいる時は晴れていたのに残念だと思っていた。

大陸横断鉄道の線路を見ている時だった。雪が舞い始めたのだ。気温が低いからかみるみるうちに積もり、緑や茶色だった景色が白くなった。
鉄道の線路も白くなり、そして辺りは静寂に包まれた。
言わずもがなその年の私にとっての初雪で、灰色の空から舞い降りてくる雪を飽きずに眺めていた。とんでもなく寒かったけれど、シンシンという音が聞こえてきそうな様子でパウダースノーが降り積もっていくのには、心惹きつけられた。
いつまでも眺めていたかった。

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帰り道ではまだ標高の高いところだと雪は降り続いていて、あまり景色を楽しむことはできなかった。道中にあった湖も白く霞んでいて、行きの雪が降ってない時に見れてよかったと思った。
山の麓に降りてくると雪は降っていなかったが、 地面が濡れていた。
ただ空気は凍てつくように冷たく、いつ雪が降ってもおかしくない状況だった。

前日は気温が低かったが晴れていた分、幾分ましで、美味しそうなアイスクリーム屋さんを見つけて、屋外で食べる余裕があった。しかしこの時は、吹き付ける風に耐えきれず、名物のビーフステーキが食べられるお店に入った。
建物の中は外とは全く違い、暖炉では薪が燃え、暖かい雰囲気だったことを覚えている。
もちろんビーフステーキもほっぺたが落ちるほど美味しかった。

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後日、雪が楽しいことだけでなく、雪に慣れていないと、大変な思いをすることも知ることとなった。雪が踏み固められて凍った道を歩いたが、スニーカーやパンプスだとつるつる滑って危なかった。
また、少し歩くだけでつま先が冷たくなった。パウダースノーに見えてもしっかり、靴下まで浸水してきていて、あわや霜焼けになるところだった。