朝目覚めると、窓の外の景色が一変していた。所々積もっている雪に私の心は躍った。

関東では珍しい雪積。その希少な光景に中学生の私は寒さも忘れて、胸を高鳴らせた。

◎          ◎

ソフトボール部に所属する私の平日は、毎日朝練から始まる。この日も例外ではなく、朝練のためにいつもの待ち合わせ場所へ出発した。待ち合わせ場所には既に数人の仲間が集まっていて、みんなで寒さを分け合うように「寒いね~」と声を掛け合った。

しかし、校庭に足を踏み入れた瞬間、私たちは息をのんだ。

普段のキャッチボールの場所は、今や誰の足跡もない純白の絨毯と化していた。まるで別世界のような静寂の中、その美しさに見とれる私たち。寒気が頬を刺すような朝だったが、その景色は私たちの心を温めた。

部長の「今日は校内で筋トレにしよう」という判断で、活動場所は室内へと移った。しかし、みんなの心は既に雪に奪われていた。「雪すごいね」「雪合戦したいね」と期待に満ちた声が飛び交う。

いつもより短い練習を終え、「ありがとうございました!」の挨拶が済んだ瞬間、私たちの目があった。そこには同じ思いが宿っているのが一瞬で伝わった。

誰かが「ねぇ、外いかない?」とつぶやいた瞬間、全員の顔がパッと明るくなった。

◎          ◎

最初は遠慮がちに雪に触れていた私たちも、すぐに童心に返った。1人が雪玉を投げ始めると、たちまち雪合戦が始まった。ソフトボール部らしく、投げる玉の威力は十分。笑いと悲鳴が入り混じる中、いつしか本格的な雪合戦へと発展していった。

自然と2チームに分かれていて、まるで部活の試合のような雪合戦が始まった。「いったーい!」「えい!」という声が飛び交い、徐々に白熱していく雪合戦。周りの寒さなど全く気にならない。むしろ、熱くなった体から湯気が立ち上るほどだった。

◎          ◎

そのうち誰かが思いついたように、サッカーゴールの網を揺らし始めた。積もった雪が白い滝のように降り注ぎ、その下で歓声を上げる私たち。髪も制服も真っ白になりながら、夢中になって遊んだ。

気が付けば他の部活の友人たちも集まり、朝の校庭は歓声で溢れていた。先生の「そろそろ戻れー!」という声で現実に引き戻されるまで、私たちは時間を忘れて雪と戯れた。

◎          ◎

その日の授業中、私の心は雪景色の中を彷徨っていた。窓の外に広がる白銀の世界。そこに刻まれた私たちの足跡。飛び交う雪玉。仲間と笑いあった時間。それらが鮮やかに蘇る。

15年以上が経った今でも、雪が降るたびにあの朝の記憶が蘇る。社会人となった今も、連絡を取り合う部活の仲間と「雪で遊んだ朝練覚えてる?」と懐かしむ会話が弾む。

あの日の私たちには、何の計算もなかった。ただ純粋に、目の前の雪を楽しんでいただけ。その無邪気な喜びこそが、かけがえのない青春の証だったのかもしれない。

◎          ◎

今、子育てをする身となって、子どもたちの無邪気な姿に自分の過去を重ねる。厳しい練習を共に乗り越えた仲間との絆、予期せぬ出来事を楽しむ心の柔軟性。 すべての経験が今の自分を形作っている。

時には厳しく、時には優しく、さまざまな表情を見せてくれた部活動の日々は、私の人生の宝物となっている。

◎          ◎

雪が降るたび、私はきっとこれからも思い出すだろう。真っ白な朝の校庭で無邪気に笑い合った仲間たちの姿を。青春とはこんなにも儚く、こんなにもまぶしく輝くものだったのだと。

そして、その輝きは今も私の心の中で、少しも色あせることなく生き続けている。