道端に咲いてる花をみても心が動かされなくなったのはいつからだろう。
太陽が照る空を見上げ、思わず下を向いてしまうようになったのはいつからだろう。

高校一年生の春、わたしは高校入学とともに始まる新しい生活に胸を躍らせていた。教室には「部活何にする?」「〇〇と〇〇でまよってて……」と新一年生らしい会話が飛び交っていた。みんなが部活動決めに話を膨らませている中、わたしには入学時から入部したいと決めていた部活があった。

それは書道部である。新入生オリエンテーションで、大きな筆を持ち、太鼓のリズムとともに繰り広げる迫力あるステージに大きな感銘を受けた。わたしは小学校2年生から書道を習っていたのだが、このような書道の形を生で見たことが初めてだったということもあり、すぐに魅了されてしまったのだ。

早速、入部届に書道部の道の字まで書こうとした時、ふいに、斜め前に座っていた女子達の声が聞こえてきた。

「わたし書道部も考えてたんだけどさー、書道部ってかなりブラックらしいよ?」

わたしの鼓動が少し早くなるのを感じた。しかし入学時から決めていたことだ。書道部に入らなかったとして、他に入りたいと思う部活もない。そうだ、きっとただの噂だろう。そう思い、書道部と書かれた紙を提出した。

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書道部に入部してから数ヶ月がたち、全くブラックさを感じない平穏な日々が続いていた。しかし高校1年生の後期、事態は一変した。わたしが副部長に任命されたことで、わたしを取り巻く環境は墨のように真っ黒になっていった。

先生の対応が、ほかの生徒と明らかに違う。わたしが添削を申し込んでも、「後でチェックする」と言われ、締め切りギリギリまでアドバイスをくれない。ギリギリになって初めて添削をしたにも関わらず、「こんなもので提出できると思ってるの?あなたは帰らないで残ったほうがいいんじゃないの?」とキツく言葉を放ち、夜の10時までわたしだけを学校に残す日もあった。私と話すとき、わたしと接する瞬間だけが真っ黒な空気に包まれている。

毎日、何を楽しみに生きれば良いのかわからなくなった。人と喋ることも面倒と思うようになり、頭の中は、書道の締切や副部長としての仕事、自分の課題でいっぱいで、今にもパンクしそうになっていた。160cmのわたしの体重は、高校2年生の時点で36kgになっていた。

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高校2年生の夏休み。わたしは体調を崩してしまった。しかし今日は書道の展覧会の課題を仕上げる最終日であり、絶対に欠席は許されない。やっとの思いで身体を起き上がらせ、部室へ向かった。自分の中で恐怖の源である部室にいることが、精神的にもわたしを追い詰め、わたしは部室内で過呼吸になってしまった。

過呼吸になりながらも、ふと先生をみると、とても冷たい目で私を見ていた。ただ遠くから。過呼吸が治ると、先生がこちらに近づいてきて一言私に放った。

「じゃあ帰れば?」

そのとき私の中の何かがぷつんと切れる音がした。

その日の夜、わたしは両親に今まで自分が受けてきた仕打ちや自分の思いを全て話した。そして「助けてほしい」と伝えた。この言葉を人に言うのはいつぶりだろうと思った。わたしは人に頼ることがあまり得意ではない性格だ。自分でどうにかできる、人に迷惑をかけたくないと自然と思ってしまうのである。

「助けてほしい」という言葉一つで、わたしを取り巻く空気には少しずつ光が入り始めた。退部届を提出してもなかなか受けいれてもらえなかったが、「わたしは1人じゃない」そう思えることで、強くなれた。

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退部届を提出してから、約3ヶ月後、無事に受理され、わたしは自由の身となった。

人と喋る時間が好きになった。
学校に通う平日が待ち遠しく思うようになった。
家の庭にお花を植えたいと思うようになった。

わたしの毎日はいま、虹色に輝いている。「助けて」という言葉ひとつでこんなにも世界は変わるのだ。

これを読んでいる人に伝えたい。人間は頑丈に見えるが、心は、ふとしたことで崩れる砂山のようである。限界を超える大切さだけでなく、逃げることの大切さも知ってほしい。どうか無理をしすぎずに、人に頼ることを恐れないでほしい。あなたの毎日が虹色に輝くことを願っています。