私が生まれ育った故郷、宮崎では雪なんて滅多に降らなかった。稀に降ったとしても積もることなんて一度もなく、テレビで東北の映像を見ては不謹慎ながら「いいなぁ」と憧れを抱いたものだ。

2024年2月5日、東京で大雪が観測された。思えばあれが私にとって初めての自然の雪の猛威だった。

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初めてちゃんと雪に触れたのは、高校2年生の修学旅行のとき。長野でスキー合宿があったのだが、それが積もった雪との初対面だった。人工雪だったけど。

雪に触れたのが初めてとなると、スキー自体ももちろん初めてで、合宿とは言えたったの一泊二日だったから、果たしてちゃんと滑れるようになるのか不安だった。結論から言うと、滑れるようになっていない。原因はまともにスキーをしなかったからだ。

目の前に憧れとも言っていい銀世界が広がっているのだ。雪も積もってるし、スキー施設だから備え付けの服が暖かい。スキーそっちのけで雪だるまを作り、雪玉を作っては投げ合った。スキーもやってはみたが、滑るというよりはもうすでに誰かが通った後をなぞることしかできず、ウインタースポーツの楽しさが微塵もわからなかった。途中からスキー板を外し、ストックを放って雪合戦に耽っていたら、気づいた頃にはインストラクターもレクチャーを諦めていた。申し訳ない。

しかし雪合戦も雪だるまも一日で飽きてしまって、二日目は早々に手持ち無沙汰になった。というより、「雪って濡れるのか」ということに気づいてしまったのがショックだったのだ。原理を考えれば当たり前のことなのだが、そこまでちゃんと雪に触れたことがなかったから、ふわふわでどちらかというと埃に感触が近いイメージだった。実際は体に当たると溶けて濡れるのかと気づき、鬱陶しくなった。

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というのが、私の雪に対する最初の思い出で、それ以来の雪(しかも自然雪)が去年の2月だった。東京で一人暮らし、昼頃の玄関先はもうすでに積もっていて、指を突っ込むと第一関節はすっぽりと隠れた。慌てて動画を録って、実家の家族に送りつけたものだ。

ところが雪というのは想像以上に厄介なもので、私みたいに雪経験が無い人間がこういう場面に出くわすと、あまりにも対策ができていなさすぎて困る。

次の日が出勤日だったのだが、雪は止んでいても積雪は溶け切っていない。まず靴が無い。仕方ないので厚底のスニーカーで挑んだが、出発5分でズクズクになった。足先が凍死するかと思った。

さらに歩くのに時間がかかる。少しでも体幹への集中を切らすとすっ転んでしまう。出勤するだけで一苦労だった。

幸いにも私の家はアパートの3階で、自家用車も自転車もないから直接的な被害は特になかったのだけれど、日本海側や東北の人たちは毎シーズンこれを経験しているのかと思うと尊敬の域に値する。一軒家の方が雪かきをするのを目の当たりにしたが、雪が止まなければかいてもかいても意味がないだろう。自然の猛威というのは恐ろしい。

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スキー合宿と東京での雪を経験して、南国でぬくぬくと育ったからこその「雪だー!」とはしゃげていたあの頃にはもう戻れなくなってしまった。ホワイトクリスマスなんて言葉もあるが、降らない方がマシだ。濡れるし。