「将来何になりたい?」アーティスティックな彼女の回答を分析した
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賢いのにどこか抜けている子。そして厄介なことにその「抜けている」が致命的な欠点であったりする。こんな友達や知り合いが周りにいた経験がないだろうか?
ちなみにある私の友人はまさにこのパターンである。政治やジェンダーなど様々なことに関心があり、それについて自分の考えを言語化するのがとても上手で賢いだけではなく、自分が掲げた目標を絶対夢では終わらせないその実行力には毎回すごいなと驚かされるばかりである。
だがその反面、彼女の朝の弱さと遅刻癖は見ているこっちがヒヤヒヤしてしまうぐらい中々克服できないらしい。過去には1時間早く集合時間を間違えたり、特急電車に間に合わなかったり、空港でパスポートを危うく失くしそうになったりと。こうしたおっちょこちょいな部分があるのは、こちら側が振り回されるため少々気が休まらない。私は遊びに行く前日には彼女に毎回時間と場所を必ずリマインドしないと不安で仕方がない。リマインドしないと会えない可能性があるからだ。ただ同時に神様はちゃんと人間を平等に作ったのだなと思わざるを得ない。ありがとうと言いたいところだが、ただ神様に一つ物申すのであれば「彼女を極端に創りすぎ」である。
そんな彼女とは中学生の時に同じクラスになったことがきっかけで友人となった。同じ大学に通ってはいないが大学生になった今でも交流が続いている。私は自分が悩んでいたり、納得できない事柄に対してモヤモヤしていたり、将来のことを考えて不安になったりするときは決まって彼女に相談する癖がある。なぜなら彼女の口から出るアドバイスや考えは一言で言うと「アーティスティック」だからだ。その言葉の続きを思わず聞きたくなってしまうような妖艶な魅力を持っているのだ。そしてこのアーティスティックな言葉を聞いて何が彼女の魅力を引き出しているのかが分かった。そうだ、美術館に行けばいい。私はそう思った。
それを確信したのは大学二年生の春休みにその友人と一緒に福岡に旅行に行った時のことである。日付が変わりホテルの部屋でお酒を飲みながら私は彼女に「将来何になりたい?」と聞いてみた。彼女は迷いもなく「海外で何をしてるか分からないおばさんになりたい」と語った。いつも通りの彼女の回答の仕方ではあるが、この文面だけでは彼女の真意は分からない。なぜならあまりにも抽象的すぎるからだ。そこでアパレルのアルバイトで培ったヒアリング力を用いながら彼女の核を突いていこうと思った。
最初に得られた回答はこういった内容であった。「海外で仕事をしたいから海外に住むこと。そしてその家にいとこの子供が遊びに来た時に泊まらせてあげたい」ここまでは至って普通の回答だ。しかしここですんなり行かないのが彼女である。その次がいつも面白いのだ。次に彼女が口を開いた時にこんなことを言った。「いとこの子供が私の家に泊まった時に、あのおばさん何の仕事してるかは分からないけど豊かな生活してるなって思って欲しい」と。彼女はいつも私の期待を裏切らない。思わずすごいと彼女に言ってしまった。さすがだ。こんな表現を思いつくのは彼女しかいない。いくら優秀ですごいと言われる同年代の人でもこんな回答はしないだろう。
旅行から帰ってきた日に「なぜいつも彼女はこうした表現が上手いのだろうか」とふと疑問に思ったため、今までの彼女の発言や考え方、どんな習慣がこうした表現につながるのか考え分析してみた。そして一つの答えに辿り着いた。「美術館に行っているからだ」そこで美術館に行くことで何を吸収できるかを考えた自分なりの見解は二つある。
一つは想像力が磨かれ表現力が豊かになるからである。芸術作品には作者のコンセプトやアーティストとしての価値観が含まれている。作品の感想を人にうまく伝えるためにはふさわしい言葉でないと伝わらない。表現力が豊かになると説得力が高まる。そして彼女は美術館に行った際には必ず自分の感想を自分の中に落と仕込む習慣がある。だからこそ他の人の口からは出てこない語彙や表現が出てくるのだと思う。二つ目は多様性を受け入れられるようになる。日本のアーティストだけではなく、海外のアーティストの様々な価値観に触れることができる。違う考え、見方があることを理解しているからこそ、多角的な角度から表現することができ、彼女の関心事である政治やジェンダーに対する意見も上手くまとまるのだと思う。
肝心の私は一体どうなのだろう。私自身も美術館に赴くことが好きである。ただ、誰かと感想を交換した上でその人の考えを吸収したい思いが強く一人で行くことは滅多にない。一人で行くとするならば諦めがつかない時だけである。ただ彼女の言葉を受けて美術館に行かないのは勿体無いかもしれないと思えた。クリエイティブ業界に興味のある私にとって美術館に行くことはうってつけである。彼女が台湾留学から帰国する前も帰国した後もたくさん美術館に訪れることを2025年の私の宣言とする。
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