新卒で入った会社での初めての社員旅行。

社長のアイデアで2~3人の少人数グループに分かれて、行先も旅行プランも自由に決めていい代わりに、旅行のレポートを記事にするという任務が課せられた。

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といいつつも、実際は社員旅行という名のバカンスとでもいうようなもの。せっかくなら現地でゆっくりしたいという先輩の意見により、1週間という社員旅行にしては長めの期間行くことになった。

そして同じグループであった先輩方とともに決めた行先は、なんとなく気になっていた「台湾」。台湾といえば日本でも人気の旅行先の一つであり、治安も良く、現地の方がとても親切で優しいというイメージがあった。

ただ旅行に行く前のわたしのイメージは一般的なものであって、それ以上に特別興味があったわけでもなく、いつか行けたらいいなくらいの軽い気持ちだった。最初に行こうとしていた旅行先は上海だったのだが、なかなか予算内のチケットがなかったり、タイミング的に宿泊先が見つからなかったりと急遽行き先を台湾に変更した形で、台湾に行く当日まで私はほとんど下調べをしていなかった。

というのも社員旅行で海外へ行けること自体は嬉しかったが、旅行に行く期間はちょうど私の誕生日でもあった。1年に1度の大切な日、まだ入ったばかりの会社の社員旅行に行くというのは少しばかり不安があったのだ。

しかし、あんなにも特別な誕生日になるとはこのときは予想もしていなかった。

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現地に着いて、初日と2日目は先輩方とともに台湾の観光地を回った。初めて訪れた台湾は想像以上の居心地のよさで、すでに2日目で私の大好きな場所になっていた。

そして3日目は個人行動ということで、昼間はそれぞれ自由に行きたい場所に足を運び、夜にホテルでみんなでゆっくりするという計画だった。

そんな台湾旅行3日目は、私の誕生日当日。

台湾は素敵な場所だし、社員旅行も想像以上に楽しい時間だけれど、やっぱり誕生日は友達や家族にお祝いしてもらいたかったなと少しばかりの後悔の気持ちがあった。そんな気持ちを抱えながら、宿泊先のホテルへ戻るとそこで予想もしていなかったことが起こった。

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部屋に入った瞬間、先輩2人が大きな声で「お誕生日おめでとう!」を私を出迎えてくれたのだ。

そしてよく見るとその手には、大きなホールケーキを持っていた。

そもそも、会社に入ったばかりの身である私の誕生日を知っているわけもないし、ましてやそれを覚えていて、お祝いしてくれることなんてあるわけがないと思っていたのだ。

異国の地で、まさか誕生日をお祝いしてもらえるなんて誰が予想しただろうか。

先輩方2人がこっそり計画を立ててくれていたらしく、わざわざケーキ屋さんを調べて誕生日ケーキを用意してくれたのだ。その気持ちが本当に嬉しくて、誕生日に社員旅行なんてと後悔していた自分に後ろめたさを感じた。

「誕生日に社員旅行になってしまってごめんね」と、そう先輩が私に言ってきたけれど、そんなことはもう全く問題ではなく、ただただ今目の前に起こっている状況が幸せすぎたのだ。

2人が買ってきてくれた可愛らしいホールケーキをワイルドにも、みんなでフォークでつつきながら食べた。あの時食べたケーキは海外仕様なのかいつもより大きくて、ちょっぴり甘い味わいだったけれど、そんなことが気にならないくらい、とっても美味しくて幸せの味がした。

あの日食べた誕生日ケーキは、今まで食べたどんなケーキよりも美味しくて、今でも思い出すたびに心が満たされる。

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初めての社員旅行で初めての台湾、そして初めての海外で迎えた誕生日。

初めて尽くしの中で食べたケーキはあまりにも美味しくて、先輩方の優しさと愛情を感じられた忘れられない思い出の1品だ。