雪がめったに降らない土地に住んでいる。めったに降らないと言われてピンとくる土地がどこだろうか、何県だろうかと考えたことがあったかなと、今ふと思ったけど考えたことはなかったと思い返した。

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「めったに降らない」ので、雪が降ったら嬉しいのである。それは、わたし自身もそうであるし、わたしの家族も、わたしの友達も、わたしが高校生の時に付き合っていた彼氏もそうであったと思う。

高校生の時に付き合っていた彼氏、それは、自由であり、身軽であり、反面、その剽軽さの中にリアリストというかあまりにも狡猾で現実を見つめることができる目を持ち合わせていた人だったとわたしは思い返している。

その面をひた隠しにしていたけど。その狡猾さや現実的な面をきちんと持ち合わせていた人だから、殻はしっかりしてるのに、内面が生卵のようにぐちゃぐちゃで支離滅裂なわたしのことが嫌になってしまったのだと思うけど。

そんなことまで思い出すと、胸が苦しくなって、今日の晩御飯の卵とじわかめうどんを吐き出しそうになるから、そんな彼氏との雪の日の思い出だけを振り返ることにする。

今日の晩御飯は、しかもうどんだけではなくて、鯖の押し寿司と炊き込みご飯までついてて、それはそれは幸せなご飯だったから。三連休の真ん中の日で、何も考えずに起きて、何も考えずに寝れるという年に数回しかない超ラッキーな日だから。

胸が苦しくなるようなことではなくて、もう10年近くも昔になってしまったことだけど、ハッピーだったあの日を意地でも思い出す。

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雪だるまの日のことは、二月か一月だったと思う。高校一年生の時のこと。

入学してすぐの頃から、付き合っていた人。わたしはこの人のことが大好きすぎて、毎日勉強どころではなかった。でも、そんなふうに思われたくなくて、必死に予習復習をしたふりなんかしてた。そんなことしなくてもよかったかもと今では思う。苦い。苦虫。その人と一緒に過ごす春夏秋冬が愛おしすぎて。公園まで一緒に帰って、茹蛸になりそうなめちゃくちゃ暑い中喋ってたのも、ばかみたいに寒い日に、マフラーをぐるぐる巻きにして、手袋も2個重ねて喋っていたのも、昨日のことのように思い出して泣きそうになっている。

で、雪だるまの日のこと。朝から窓の外の様子がおかしくて。普段は聞こえる車が走る音が聞こえなかったとかきっとあったんだろう。雪が降っていたんだよね。わたしがこれまで今まで生きてきたなかでも、2回か3回しかなかったと思う、雪だるまが作れるまで雪が積もることなんか。その一回が、高校一年生だった冬。大好きだった人がいた冬。

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毎日ラインで連絡してたから、その人にたぶんラインした、「雪降ってるね!」とか、「雪やば!」とかね。その前後のことをすっぱり忘れてしまったけど、その人は雪だるまを地元の友達と作ってた。

学校が休みになったのかな、その日って。その雪だるまがさ、男の子の身長を越すくらいの大きさだったの。165センチくらいのひとだったけど。その完成した写真をわたしに送ってきてくれた。雪だるまの横に自分と友達が並んでいる写真。その人は変顔してた。その変顔で自分の剽軽さをしっかり演じてたんだなって、今思ったけど。

嬉しかったんだよな、その写真を送ってきてくれたこと。雪がめったに降らない土地、降っただけで嬉しいのに、好きな人が送ってきてくれた雪だるまを作ったよって写真。ワクワクしたの。あれほど嬉しい雪の日なんて二度と来ない、そう思える。

もうわたしは、雪なんて降るなって、通勤できないから、困るから降ってくれなくていいよ、とさえも思うのに。16歳のわたしの心を置いてきてしまったんだなあと思う。

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誰でもよかったわけじゃないんだよね、あの日あの時、あなたが送ってくれた雪だるまの写真がわたしの胸を今でもときめかせる。

雪が積もる日が来たら、大きな雪だるまを作ろうか、いやきっとそれはもうできないから、ちっちゃな雪だるまを、君のことを思い出しながら作れたらいいな。って、またわたしは綺麗事を言おうとしている。絶対作れない、だから、また君のことを思い出しながら雪を眺めたいなと思うよ。