スカートも、ピンク。Tシャツも、ピンク。靴下もピンクなら、靴もピンク。自分では覚えていませんが、私は幼い頃、ピンク色に身を固めていたそうです。

もっとも、今となってはピンク色を手にとることはあまりありません。大人になるにつれ、ピンク色は、私の周りから姿を消していったからです。

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小学校に入学した時はピンク色だった筆箱は、高校生になる頃には水色のペンポーチに。ピンクの鉛筆は、水色や白のシャープペンシルに。ピンクの下敷きも、手袋も、ポーチも、気がつけば使わなくなりました。代わりに、紺色や茶色、白という、いかにも”大人”という色のバッグやお財布が手元にやってきました。

それがなぜかは分かりません。でも、何となくピンクを避け始めた時期があったように思います。小学校高学年に始まった、反抗期の頃からでしょうか。カーペット、ぬいぐるみ、勉強机の保護マット。ピンクであふれた子どもっぽい部屋を毛嫌いするように、私はピンク色自体から脱却することを望むようになったのだと思います。

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でも、大学生になる頃には、私は、色に対して何も思わなくなりました。つい手を伸ばすのは、水色をはじめとした寒色系のもの。でも、大人っぽい色を選ぼうなどと考えるようになったわけではありません。ただ、自分が持ちたい、着たいと思う色を手に取るようになっただけなのです。

だから、時にはモスグリーンやターコイズのような色味のワンピースを着たり、ベージュやグレーの服を買ったり。季節によってはアンズ色やライラック色に惹かれたり、濃い緑や黒い服を着て、気分が上がったりするようにもなりました。気温や気分によって、色の好みはくるくると変わるようになったのです。

相変わらず、ピンク色を手に取ることは少なくなりました。でも、その時、その時の好きな色を身にまとってもいいのだと思うようになってからは、ピンク信者ばりにピンク色ばかりを選んでいた過去の自分も、何だか愛おしく思えるようになったのです。

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そんな、ある日のこと。アパレルでアルバイトをしていた時、こんなお客様に出会ったことがありました。その方は、鏡の前で、長いこと悩んでいらっしゃいました。

もう4、5年前のことになるので、はっきりと覚えていないのですが、その方は新しくバッグか何かを買おうとして、何色にするかで悩んでいました。そして、私に尋ねてきました。「どちらの色が似合うか」と。

片手にはベージュ色。もう片方の手にはピンク色。その方の茶色っぽい重い色合いの服とのバランスだけを考えれば、ベージュが無難なのは一目瞭然でした。きっと、普段から落ち着いた色を選んでいるのでしょう。でも、今着ている服からちょっと浮いた、明るい色に心惹かれているのも確かでした。

何と言えばいいのか分からず、「どちらもかわいいですよね」と言った私に、お客様は弁解でもするように言いました。「ベージュの方が合わせやすいのは分かっているのよ。それに、この年齢でピンクって、やっぱり変じゃないかしら」

その言葉に何と答えるかは、迷うことはありませんでした。私は、「年齢とか関係ないですよ。今、心惹かれるものをお召しになるのが、一番だと思います」と、考えるより先に口にしていました。

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別に、「売りたい」と思ったのでも、特別「似合っている」と思ったわけでもありません。それ以上に、目の前の人が「周りからどう思われるか」を基準に着るものを選んでいるという事実に、いても立ってもいられなくなったのです。

ここで、「落ち着いたお色の方が、他のお洋服にも合いそうですね」なんて、とても言えませんでした。けれど、結局、その方は落ち着いた色のバッグを買うことも、心惹かれる色のバッグを買うこともなく、お店を後にされたのでした。

あぁ、もったいない。

私はなぜか、くやしさのようなものを感じました。そして、いつかまた自分がピンクに惹かれる日が来るとしたら、幼い頃のように素直にピンクを選べる心を持ち続けたいと、強く思いました。