付き合って最初の食事、1.5合のカレーを平らげたのが運命の始まり

私と夫とは大学で出会って交際を始め、社会人になってしばらくして結婚した。
付き合い始めたその日のことである。私は彼が1人暮らしをしていたアパートにいた。
そろそろ帰ろうかというとき、彼はこう言った。
「カレーあるんだけど、食べていく?」
1人暮らしあるある、大鍋いっぱいのカレーの作り置きである。
同じく1人暮らしをしており、その日の献立を考えあぐねていた私は、ありがたくお相伴にあずかることにした。
ところが。
出されたのはなんと、ご飯1.5合の超特盛カレー。
いや、私はフードファイターか。
3合炊きの炊飯器いっぱいに炊いたご飯を、彼は平然と半々に盛って提供してきたのである。
彼とは部活の同期だったこともあり、一緒に食事をするのは初めてではない。元々、私も彼も互いに健啖家だとは知っていた。
しかし、まさか付き合いたてほやほやの彼女に、1.5合のカレーを躊躇なく出すとは。いくら異性と交際した経験が無いとはいえ、さすがにそれはないだろう。せめて「ご飯どれくらい食べる?」とか聞くんじゃないのか。
かく言う私も誰かとお付き合いするのは初めてだったのだが、今自分が置かれている状況が一般的でないことは容易に理解できた。
呆れを通り越して面白くなってしまい、ひとしきり爆笑した後にあっさり完食した。カレーはとても美味しかった。夫の料理の腕前は今もめきめき上がっている。
それが、恋人同士になって初めて2人きりでした食事だった。ロマンチックさやスマートさとは程遠く、どちらかといえば粗野で垢抜けないものだった。
しかし、そんな飾らない等身大のスタートだったからこそ、大きくすれ違うこともなく人生のパートナーとなり得たのだろう。今振り返ってみるとそんな気がしてならない。
初めて2人きりで食事をしたあの日、品のあるお洒落なお店にデートに行っていたらきっと、互いに本当の自分を見せられるまでにもっと長い時間がかかっただろう。もしかしたら、人生を共にする決断には至らなかったかもしれない。
私はよく食べる方なのに加え、人よりも食べるのが早い。気心の知れていない相手と食事に行くときには相手のペースを見ながらわざとゆっくり食べ、皆が食べ終わった直後くらいに食べ終わるように調節している。
そんな私にとって、超特盛のカレーは「無理しないで、そのままの君でいて」というメッセージだったように思えてならない。無論、当時の彼にはそんなつもりは全くなかったのだろうが。
自然体でいるのはとても勇気がいることだ。誰だって自分のことは少しでも良く見せたい。それが意中の相手であれば尚更だ。それでも、ありのままをさらけ出し、その自分らしさを受け入れてもらうことができれば、それは背伸びして承認欲求や自己顕示欲を満たすよりもずっと心地良い。
今では、我が家のカレーはご飯半合である。あの日のような超特盛のカレーはもう普段の食卓には上らない。それでも、夫の作ったカレーを食べるとふと、全てのはじまりだった日のことを思い出すのである。
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